安倍 雅史(あべ まさし)
1997年から、西アジアにおいて考古学調査に参加しています。現在は西アジアにおける農耕・牧畜および遊牧の起源、南メソポタミアと周辺地域の交流史をテーマに研究を続け、イランとバハレーンにおいて発掘調査を行っています。
前4千年紀、南メソポタミアに世界最古の文明が誕生します。しかし、南メソポタミアは泥が堆積した広大な沖積平野であるため文明生活に必要不可欠な資源が存在せず、こうした資源を周辺地域から獲得する必要がありました。そのため前4千年紀後半になると南メソポタミアの都市国家群は周辺地域に進出し、交易拠点を建設していきます。2017年から発掘を進めるイランのカレ・クブ遺跡は、南メソポタミアから1000km以上離れていますが、南メソポタミアの土器が大量に出土し、こうした交易拠点の1つであったことがわかってきています。
前3千年紀になると、ペルシア湾の海上交易が発達し、南メソポタミアには海上を通じて物資が運ばれるようになります。ディルムンは、前2千年紀前半にこの海上交易を独占し繫栄した王国で、現在のバハレーンにあったと考えられています。2015年からディルムンの古墳群の調査を開始し、ディルムンが海上交易を独占するに至った背景を追求しています。
本プロジェクトでは、レヴァントで生まれた遊牧が、いつ、どのようにアラビア半島内陸に拡散したかを研究したいと考えています。バハレーンにおいて、前8千年紀のレヴァントのPPNB文化の石器群とそっくりな石器群が表採されています。これは前8千年紀にレヴァントで生まれた遊牧が、アラビア半島内陸を通り抜け、一気に対岸のバハレーンにまで達したことを示す証拠と考えています。この仮説を検証するため、バハレーンにおいて考古学調査を行う予定です。
主な著書・論文
・安倍雅史・上杉彰紀・西藤清秀・後藤健 (2017)「ワーディー・アッ=サイル古墳群からた古代ディルムンの系譜」『西アジア考古学』18号 1-15頁。
・Gotoh, K., Saito, K., Abe, M. and A. Uesugi (in press) “Excavations at Wadi as Sail, Bahrain 2015-2019”. Proceedings of the Seminar for Arabian Studies 50
・Abe, M. and M. Khanipour (2019) “The 8.2ka Event and Re-Microlithization during the Late Mlefaatian in the Zagros Mountains: Analysis of the Flaked Stone Artefacts Excavated from Hormangan in North-eastern Fars, South-west Iran.” In: Decades in Deserts: Essays on Near Eastern Archaeology in Honour of Sumio Fujii, edited by S. Nakamura, T. Adachi and M. Abe, pp. 305-317. Tokyo, Rokuichi Syobou.