藤井 純夫(ふじい すみお)
厳然として存在しながらその起源が依然として不明な西アジア遊牧部族社会の形成過程を解明すること、これが私の積年の研究課題です。その鍵を握るのは、ヤギ・ヒツジが家畜化された先土器新石器時代Bから、部族制社会が成立したとされる前期青銅器時代までの、約5千年間の文化の推移です。そのため、「肥沃な三日月弧」外側のビシュリ山系(シリア中部)、ジャフル盆地(ヨルダン南部)、タブーク高原(サウジアラビア北西部)で、過去30年間、先史遊牧民の遺跡調査を続けてきました。
その結果、1)先土器新石器B後半における乾燥域移牧民の派生、2)後期新石器時代の乾燥化に伴う初期遊牧民の形成、3)銅石器時代後半から前期青銅器時代にかけての(羊毛・乳製品を量産し、大型の墓域を営む)本格的遊牧部族社会の成立、という流れを俯瞰することができるようになりました。
しかし、これは大まかな流れに過ぎません。今回のプロジェクトでは、バーレーン、サウジアラビア、ヨルダンなどで実施予定の十数件の遺跡調査を通して上記の展望を再検証し、墓制、祭祀、社会構造、遊牧民および家畜群の形質、水利技術、岩絵、部族標識などの諸側面から、中東遊牧部族社会の成り立ちを包括的に解明したいと考えています。
主な著書・論文
・藤井純夫 (2018) 「食料生産革命とレジリエンス」奈良由美子・稲村哲也編著『レジリエンスの諸相』95-110頁, NHK出版.
・藤井純夫(2013)「シリア中部ビシュリ山系の遊牧化過程 – ヨルダン南部ジャフル盆地との照合」大沼克彦編『ユーラシア乾燥地域の農耕民と牧畜民:考古学, 民族学, 文献史学の視点 から』170-188頁, 六一書房.
・藤井純夫他編(2013)『西アジア考古学講義ノート』全109頁, 西アジア考古学会.
・藤井純夫 (2009)「沙漠のドメスティケイション – ヨルダン南部ジャフル盆地における遊牧化過程の考古学的研究」山本紀夫編(国立民族学博物館調査報告84)『ドメスティケーション – その民族生物学的研究』519-553頁.
・藤井純夫 (2001)『 ムギとヒツジの考古学』全 344 頁, 同成社.
・藤井純夫 (1998)「「肥沃な三日月地帯」の外側 – ヒツジ以前・ヒツジ以後の内陸部乾燥地帯」『岩波講座世界歴史第2 巻:オリエント世界』97-124頁, 岩波書店.