長谷川 奏(はせがわ そう)

長谷川の代表的研究業績の①~④は、早稲田大学において携わってきたエジプト考古学研究の総まとめ(~2016)(①)と、その後の新たなチャレンジ(②~④)に大別される。

①は学位論文を書籍として刊行した専門書であり、エジプト古代末期の生活文化に色濃く定着していた地中海文明の要素が初期イスラーム時代まで残存する経緯と、その現象がやがて消滅し独創的なイスラーム文明が形成される道筋の提示が本書の主軸となっている。

②は考古学・画像情報学・地理学の総合調査であり、エジプト地中海沿岸の湖沼地帯で営まれていた人々の暮らしぶりが、ナイル沿岸のライフスタイルと大きく異なる独自性の高いものであったことを立証する研究である。

③は、エジプト出土の多彩釉陶器(ファイユーム陶器)を事例として、考古学研究者と分析科学を専攻する理系の研究者らが共同して、イスラーム陶器の技術革新の解明をめざして取り組んだプロジェクトの成果を記したものである。

そしてこのたびの基盤(S)研究と最も深く関わるのが、サウジアラビアの紅海沿岸の港町(al-Hawra’)調査である(写真1,2)(④)。歴史的に著名なイスラーム巡礼の港であった遺跡のサーベイを終え、これから発掘調査が開始される。発掘に先立って、港と集落からなる港町の構造を解き明かす鍵ともなるメルクマール的な建造物(砦か)が発見されており、中世の歴史文献との接点も注目される。集落(9~12世紀)の発掘からは、初期イスラーム時代の生活文化が詳細に紐解かれていくことは確実であるが、さらに一歩踏み込んで、基盤(S)の主題である部族社会の特質を遺構と遺物からどう読み解いていくかが、楽しみな課題となっている。


主な著書・論文

①長谷川奏『初期イスラーム文化形成論-エジプトにおける技術伝統の終焉と創造-』2017/12、中央公論美術出版、462p.。(Hasegawa, S. Theory for the Formation of Early Islamic Culture: Last phase of the technological tradition and new creation in Egypt, Fine Art Publisher of Chuo-Koron, 468p., 2017/12.)

②Hasegawa, S. “Recovering Evidences of Ancient Economic Activity in the Lowlands of the West Delta: A Hellenistic Village Site and Its Surrounding Landscape” Sophia Journal of Asian, African and Middle Eastern Studies, Institute of Asian, African and Middle Eastern Studies, Sophia University, No.35, 2017/12, pp.53-66.

③長谷川奏、村上夏希他「自然科学的手法によるイスラーム文化形成期の技術革新の解明-エジプト出土のファイユーム陶器を事例に-」『イスラーム地域研究ジャーナル』早稲田大学イスラーム地域研究機構、vol.10, pp.46-79、2018/3。(Hasegawa, S., N. Murakami et al.“Archaeometric study on the technological innovation at the formation of the Islamic culture: Analysis on the Fayyumi pottery in Egypt” Journal of Islamic Area Studies, vol.10, pp.46-79, 2018/3)

④Hasegawa, S. and R. Tokunaga “Preliminary Report of the First Season of the Saudi-Japanese Archaeological Mission in al-Hawra’, Umluj and its Hinterland: March 2018” Archaeological Research at al-Hawra’: Medieval Port Site at the Red Sea Coast of Saudi Arabia, vol.1, Research Office at Waseda University, Oct. 2018, pp.1-34.