2020/12/14
公開シンポジウムを開催しました。
去る2020年12月12日に、金沢大学国際文化資源学研究センター(課題ユニット「遊牧民と古代文明」)主催のシンポジウム「西アジアにおける先史遊牧民と古代文明の成立」)をオンラインで開催しました。
近藤康久氏(総合地球環境学研究所)、三木健裕氏(ベルリン自由大学)、黒沼太一氏(総合地球環境学研究所)からは、「南東アラビア前2千年紀ワディ・スーク文化の再検討:ハジャル山脈南麓タヌーフ峡谷での調査から」と題して、オマーンの山間地域に所在するタヌーフ峡谷での調査事例についてご報告がありました。この峡谷に所在するムガーラ・アル=キャフ洞穴では前2千年紀前葉のワーディー・スーク文化期の遺物が出土しており、この時代にはめずらしい洞穴利用についてご紹介いただきました。前3千年紀のウンム・アン=ナール文化期から前2千年紀前葉のワーディー・スーク文化への遺構にあたっては、遺物のみならず、居住形態の変化も指摘されていますが、この洞穴遺跡の発見が当該期の社会=文化変容や、アラビア半島南東部における遊牧部族社会の成立に関してきわめて重要な知見となることが示されました。
上杉彰紀(金沢大学国際文化資源学研究センター)からは、「前3千年紀後半〜前2千年紀前半:バハレーン島における社会の様相」と題して、バハレーン島における社会発展とメソポタミア、インダスを結ぶ海洋交易の関係について報告がなされました。バハレーン島では前2千年紀前葉に王国の成立や独自の印章の創出、超大型墓の出現などの現象が確認されていますが、その背景にメソポタミア、インダスとの交流関係があることが論じられました。特にインダス系の器物がバハレーン島に多く流入しており、単に交易による物資の移動だけでなく、商人や工人などの生業集団の移動・移住もあった可能性があり、バハレーン島における社会変化と交易・交流の関係はきわめて動的に捉える必要があることが指摘されました。
足立拓朗(金沢大学人文学類)からは、「東ヨルダンの遊牧民拠点のバーイル地域について:オスマン・トルコ期の記録を中心として」と題して、バーイル地方における遊牧民文化の歴史とこの地域の交通上の重要性についての報告がなされました。現在、この地域は主要な交通路からは外れていますが、20世紀前半以前には、ヨルダンの内陸乾燥域が重要な交通路として機能していたことがT.E. ロレンスの記録などを用いながら具体的に示され、この地域の重要性の起源が青銅器時代以前にさかのぼる可能性が指摘されました。
ご参加いただいたみなさまにお礼申し上げます。