文化庁令和4年度文化遺産保護国際貢献事業(文化遺産国際協力拠点交流事業)「中米におけるマヤ文明文化遺産の三次元計測と取得データの活用に関する人材育成事業」採択に関して
当研究所長である中村誠一教授(文化資源学部門)が実施責任者を務める「中米におけるマヤ文明文化遺産の三次元計測と取得データの活用に関する人材育成事業」が文化庁の令和4年度文化遺産保護国際貢献事業(文化遺産国際協力拠点交流事業)として採択されました。
業 務 計 画 書
1.業務題目
中米におけるマヤ文明文化遺産の三次元計測と取得データの活用に関する人材育成事業
2.業務の目的
本事業は、金沢大学がリエゾンオフィスを設置しているグアテマラのティカルとホンジュラスのコパンにおいて、世界遺産の修復保存を担当する現地政府研究機関の専門職員および現地大学の考古学や博物館学専攻分野の学生、大学院生を主対象とし、世界遺産における建造物や遺構の三次元計測法や取得データの修復保存への活用法をハイブリッド型研修(オンラインでの一連のワークショップやセミナー、現場での実践研修)を通して教授し、その過程で現地人材の育成を促進する事業である。
3.業務の期間
令和4年4月15日から令和5年3月31日(予定)
4.当該年度における業務実施計画
遺跡の調査や遺物の記録、文化遺産の修復保存において、三次元計測や三次元データは重要であり、今や一般的かつ不可欠なツールとなっている。しかしながら、現地では、いまだ文化遺産の三次元計測に関する知識が普及しておらず、三次元データの重要性も理解されていない。この点は、本事業の主な対象であり、世界遺産に登録されているグアテマラのティカル国立公園とホンジュラスのコパン遺跡公園でも同様である。
ティカル国立公園では、過去の発掘調査により露出された建造物に長年の熱帯雨林気候による浸食が進み、最新の技術に基づいた修復保存計画の着実な実施が必要とされている一方で、公園付きの考古学技術者は、20世紀型の手作業による簡易実測に基づいた図面作成を行い、それに基づいて修復保存計画を立案し実施している。また、コパン遺跡公園では、過去の調査の一環で掘られたトンネルの補強や埋め戻しが十分になされてこなかったという問題が解決されずに現在に至っている。そのため、ハリケーンや大雨が訪れる度に、アクロポリスやその地下トンネルは崩落の危険にさらされており、実際に小規模な崩落も確認されている。このようなティカル国立公園における修復保尊事業やコパン遺跡公園におけるトンネルの埋め戻し・補強作業で重要となるのが三次元計測データである。
そこで、本・文化遺産保護国際貢献事業(文化遺産国際協力拠点交流事業)では、マヤ文明を代表する都市遺跡であり、金沢大学が研究教育拠点を設置しているグアテマラのティカル遺跡公園およびホンジュラスのコパン遺跡公園を主な対象としつつ、オンラインや対面の研修プログラムを行う。特に、現地の専門スタッフに三次元計測データを建造物の保存に活用する知識供与、技術移転(特に、三次元計測の基礎理論やその活用の重要性、具体的なデータ取得方法やその処理法・活用法)を行い、人材育成を行う。養成する人材に関しては、ティカル国立公園やコパン遺跡公園の専門スタッフを主な対象として想定している。また、次世代の中米の文化遺産の保護を担うグアテマラ・デル・バジェ大学やグアテマラ国立サンカルロス大学、ホンジュラス国立自治大学の考古学および博物館学専攻課程学生・大学院生も人材育成の対象である。本事業の一環で行われる研修においては、既定の出席回数と課題をクリアした研修受講者に対して、「受講証明書」を発行する。各研修では、受講証明書を受け取るレベルに達し、技術習得をした修了者が10名以上になることを目指す。
また、日本の支援で建設されたティカル文化遺産保存研究センターやコパン文化遺産保存人材育成センターで実施するセミナー、ワークショップには同じマヤ文明の世界遺産を有するメキシコやエル・サルバドルといった近隣国からも参加者が期待されることに加え、オンライン研修では中米だけでなく南米からの参加者も想定している。そのため、本研修事業を通して、人材育成が行われるだけでなく、中南米諸国間の交流や情報交換を促進させ、各国が独自に持つ遺跡の修復保存のノウハウや三次元計測とその取得データの活用に関して直面している課題を共有する契機となる。
本事業を実施するにあたって、以下の事業体制を設ける。金沢大学の古代文明・文化資源学研究所(令和4年4月1日設置)がオンライン研修を主催し、金沢大学同研究所の教員、客員研究員等が講師を務める。講義が英語で行われる場合、金沢大学の現地職員であるミゲル・エチェベリア氏がスペイン語通訳を行う。オンライン研修の広報にあたっては、協力機関であるティカル国立公園、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所、グアテマラ・デル・バジェ大学、ホンジュラス国立自治大学に協力を要請する。
また、現地調査および対面研修では、事業責任者である中村誠一教授と野口淳客員研究員、現地協力考古学者のアレクサンデル・ウリサル氏(補助員として大学院生1名も含む)が中心となって事前準備、調査、対面研修を実施する。その際、ティカル国立公園およびコパン遺跡公園が対面研修のフィールドとなるため、両公園の上位監督機関であるグアテマラ文化スポーツ省文化自然遺産副省、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所との連携を密にする。
さらに、現在実施中の案件であるJICA草の根技術協力事業「グアテマラ・ティカル国立公園への観光回廊における人材育成と組織化支援プロジェクト」や、事業責任者がホンジュラスで携わるノンプロ無償見返り資金協力「コパン遺跡公園における暴風雨「イータ」及び「イオタ」被害からの観光復興計画」、ホンジュラス・コパンルイナス市における2つの博物館への文化無償資金協力と組み合わせることによって、各事業が連携して活動に広がりを持たせる相乗効果が期待される。また、文化庁、外務省、JICA、日本の大学等、オールジャパン体制で文化遺産国際協力に取り組んでいることが内外に広く広報される。