金沢大学古代文明・文化資源学研究所公開講演会「古代西南アジア文明世界の交流をさぐる」開催報告
去る3月5日に東京・池袋にあるサンシャインシティ・コンファレンスルーム9におきまして、当研究所が招聘したイタリア人2名、日本人研究者3名による講演と討論会を開催しました。
デニス・フレネッツ氏(オマーン文化遺産観光省考古博物館局)には、「インダス文明と周辺地域の交易:南西アジアにおける青銅器時代の「グローバリゼーション」を理解する手掛かりとなるか?」と題して、インダス文明とオマーン半島の交流関係について、具体的な資料をもとにご講演していただきました。単にインダス文明の地域からの器物の搬入という現象にとどまらず、オマーン半島に定着したインダス系集団がオマーン在地集団と多様な関係を結んでいたことが紹介されました。「交流」という現象にさまざまな様相が複雑に関係していることが示されました。
シルヴィア・リスキ氏(ピサ大学研究員)からは、「乳香の道:鉄器時代の南西アジアにおける人とモノの移動をめぐって」というタイトルで、乳香の原産地であったオマーン南部のドーファル地方における考古学調査・研究についてご講演をいただきました。乳香が周辺地域との交流関係において果たした役割についてご説明いただくとともに、オマーン南部の地域がインドからアラビア半島を結ぶ重要な地域であったことを示していただきました。
下釜和也氏(千葉工業大学地球学研究センター)からは、「メソポタミア文明とその東西交流:その原動力を探る」と題して、メソポタミアと周辺地域の交流関係についてご講演いただきました。文献史料からみた都市国家、王権と交易の関係についてお話しいただくとともに、さまざまな考古資料にみる交流の実態についてご紹介いただきました。メソポタミアが周辺地域と多様な関係を結ぶ中で、文明社会を維持させていたことが示されました。
上杉彰紀氏(金沢大学古代文明・文化資源学研究所)からは「インダス文明の交流ネットワークの多様性」と題してインダス文明社会を構成する多様なネットワークのあり方についてご講演いただきました。広狭さまざまなネットワークが重層的かつ錯綜的に絡み合う中で文明社会が維持されていたことが示されました。
講演ののちに、近藤康久氏(総合地球環境学研究所)をモデレーターとして、討論会の時間を設けました。メソポタミア、オマーン、インダス各地がそれぞれどのような交流関係を有していたのか、また交流がそれぞれの地域にどのような意味を有していたのか、議論が交わされました。
最後になりましたが、発表者の先生方に加えて、通訳を担当してくださった三木健裕氏(東京大学総合研究博物館)、講演会に参加された方々に感謝申し上げます。
>> 講演会プログラム
https://isac.w3.kanazawa-u.ac.jp/symposium/sympo20230305.html