金沢大学古代文明・文化資源学研究所/「中東部族社会の起源」プロジェクト国際シンポジウム「アラビア半島の考古学 -墓制を中心に-」開催報告
2023年3月8日に金沢大学において、「アラビア半島の考古学-墓制を中心に-」と題した国際シンポジウムを開催しました。発表者・論題は下記の通りです。
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デニス・フレネッツ(オマーン文化遺産観光省考古博物館局顧問)
社会=文化的アイデンティティの道標:アラビア半島南東部における新石器・青銅器時代の墳墓
Landmarks of Identity: Neolithic and Bronze Age Tombs in Southeastern Arabia.
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シルヴィア・リスキ(ピサ大学研究員)
アラビア半島南西部における青銅器時代から古代後期の石造墓:事例研究をもとに
Stone Burial Structures in Southwestern Arabia from the Bronze Age to the Late Antiquity: Two Case Studies.
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黒沼太一(日本学術振興会/総合地球環境学研究所)、三木健裕(東京大学総合研究博物館)、近藤康久(総合地球環境学研究所)
ハジャル山麓における青銅器-鉄器時代墓:オマーン北部タヌーフ地区における事例研究
Bronze and Iron Age tombs at the foot of the Al-Hajar Mountains: A case study from the surveys in the Tanuf District, North-Central Oman -
上杉彰紀(金沢大学古代文明・文化資源学研究所特任准教授)
バハレーン島における青銅器時代の墳墓
Bronze Age Burial Mounds in Bahrain.
デニス・フレネッツ氏の発表は、オマーン半島における新石器時代から青銅器時代にかけての墓制の変遷を論じたもので、新石器時代の土坑墓から銅石器時代のハフィート文化期、青銅器時代のウンム・アン=ナール文化期の円塔墓、ワーディー・スーク期の土坑墓への変化を具体的な資料をもとに発表していただきました。
シルヴィア・リスキ氏には、オマーン南部のドーファル地方およびサウジアラビア南部のナジュラーン地方における鉄器時代から古代にかけての石造墓を紹介していただきました。これらの地域ではこれまで十分な考古学調査が行われておらず、多様な墓制の時期的変遷や地域性の理解は今後の検討ですが、アラビア半島南部の歴史の解明において、墓制の研究がきわめて重要な意義をもつことを論じていただきました。
黒沼太一氏、三木健裕氏、近藤康久氏には、オマーン北部のタヌーフ地区における墓に関する分布調査の成果をご発表いただきました。ハフィート文化期から鉄器時代の石造墓に関して、山間部の渓谷地域から平野部への地形的変化と墓形式の分布パターンの変化について、詳細な分布調査の成果をもとに論じていただきました。
上杉彰紀氏の発表は、バハレーンの青銅器時代の分布調査の成果をもとに、墳墓の空間分布パターンの変化について論じたものです。古ディルムン時代の前期(前2300〜前2000年頃)から後期(前2000〜前1700年頃)にかけて、バハレーン島を取り巻く社会環境(特に海洋交易の拠点化)が大きく変化する中で、墳墓の構造や規模、分布パターンもまた大きく変化したことを示されました。
アラビア半島各地の具体的な事例をもとにしたシンポジウムは、当該地域における考古学研究に大きく貢献する内容であったと考えています。