所長ご挨拶

 ⾦沢⼤学古代文明・文化資源学研究所は、本学の強みである考古学・文化資源学の分野に革新的なパレオゲノミクス(古代ゲノム学)を融合させて格段の進化を図り、文理融合研究による新たな古代文明研究スタイルをもつ世界トップレベルの研究拠点を形成する目的で、令和4年4月1日に設置されました。本学の歴史の中で、人間社会研究域を出身母体とする全学研究所は、本研究所が初めてです。

 我が国には、古代文明の研究を行う研究所、研究センターがいくつかあります。しかしそれらは、世界の特定地域に栄えた一つの古代文明に特化した研究所、研究センターです。それに対して、金沢大学は、特定の地域や特定の古代文明にその研究対象を絞るのではなく、地球儀を俯瞰する古代文明の研究所とする方向性を選択しました。現代社会では、世界の社会・文化の多様性を理解するグローバルな視点が何よりも重要だと考えたからです。古代文明・文化資源学研究所では、世界各地の古代文明を研究する第一線の研究者たちが、世界遺産登録遺跡を含む古代文明の中心地と周縁で世界をリードする発掘調査を展開し,お互いに切磋琢磨しながら人類史の解明に寄与することを目指します。そして、世界各地の古代文明研究をつなぐ横串として、パレオゲノミクスを始めとする理系、医系の研究を用います。これによって真の文理融合研究を具現化し、人文社会系の考古学という既存の概念を打ち破り、新しい古代文明の研究スタイルを創成していきます。

 すでに2年以上にわたり新型コロナウイルスによるパンデミックが世界に暗い影を落とし、やっとパンデミックからの脱出が見えかかってきた矢先に、ウクライナで悲惨な戦争が起こり世界は将来の見通しが効かず混乱し一寸先は闇といった状況に陥っています。このような時代に、古代文明を研究することにどのような意義があるのでしょうか。人類はこのような時代に、過去、何度も直面して来ました。我々は過去から学ばねばなりません。環境破壊や疫病の流行、人間同士の争いが絶え間なく起こって衰退・滅亡していった古代文明の歴史を知り、現代のわれわれの文明がそれを教訓として未来へと続く持続可能な社会を作っていかねばなりません。本研究所の構成員は、我々の調査研究が、常に現代社会とつながっていることを意識して研究を進めて行きます。

 「我々はどこから来たのか。我々は何者か。我々はどこへ行くのか。」ゴーギャンが我々に残したこの問いへの回答を、古代文明・文化資源学研究所は、考古学部門、考古科学部門、文化資源学部門という3つの研究部門で探し求めます。皆様のご支援をよろしくお願いいたします。



古代文明・文化資源学研究所 所長
中村 誠一