板橋悠(いたはしゆう)
所属:筑波大学 准教授
職階:客員研究員
専門:考古同位体生態学・文化財科学
研究内容
農耕の開始から社会の複雑化・都市化が進んだ新石器時代~青銅器時代の社会の変化を骨の同位体分析で明らかにしようとしており、主なフィールドは農耕開始や都市化の舞台となった西アジアや中国です。遺跡から出土する人骨や動物骨の同位体比から検証可能な、人々の食習慣やその個人差、動物利用の方法などから当時の社会を描きだそうとしています。
骨のコラーゲンやアミノ酸などの動物の体組織を構成する窒素や炭素などの元素には質量数が異なる数種類の原子(同位体)が含まれます。コラーゲンやアミノ酸は食物から動物の体に取り込まれ形成されるため、コラーゲンやアミノ酸の炭素や窒素の同位体を調べることで生前にどんな物をどれくらいの構成で食べていたのかを推定可能です。また骨の同位体比から得られるのは個人の食生活の情報です。そのため、集団や集落内で食習慣に違いがあれば、同位体比の違いとして表れてきます。
トルコの新石器時代前期では遺体は家屋の床下に埋葬する習慣があり、人骨と生前に生活していたと予想される住居を紐づけることが可能です。その結果、狩猟採集民(Hasankeyf Höyük)や初期農耕民(Asıklı Höyük)の同位体比は集落内でもバラエティーがあり、しかし家屋ごとに似たような値を持つことを明らかにしました。この結果は、定住狩猟採集民や農耕を開始したばかりの集団が集落全体で平等に食物を共有・分配していたのではなく、家・世帯単位で食料を獲得・管理していたことを示唆します。現代人からすれば当然のことに感じるかもしれませんが、当時に個人や世帯単位の財産所有の概念が存在したことを示す重要な結果です。同様に動物骨の同位体比を調べることで、家畜動物がどの規模の社会単位によって、どのように管理・所有されていたのかを明らかにできるのではないかと考えています。