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ワシントン大学での研究会について
当センター客員研究員の野澤豊一です。今回は、私がワシントン大学セントルイスで参加している研究会について報告させていただきます。
私が参加している大学内の研究会に、「アフリカン・ディアスポラ研究関連のリーディング・グループ」というのがあります。ひとことでいえば、月に一度の輪読会で、この分野で評価の高い研究書などを読んでそれについての感想を述べ合う、というものです。小規模でカジュアルな研究会ではありますが、非公式というわけではなく、歴史学部の研究経費を利用したものです。
日本では、アフリカン・ディアスポラ研究というテーマは必ずしもメジャーではありません。私がこの研究会に参加するきっかけになったのは、歴史学部の先生からお誘いを受けたからなのですが、実際のところ私も、自分が調査を続けているアフリカン・アメリカンの音楽文化やキリスト教文化を「アフリカン・ディアスポラ」という文脈でとらえてきませんでした――というより、必要性は感じていながらも真剣に取り組んでこなかった、というのが正しいと思いますが。そうした理由があったので、この研究会への参加を薦められた時には一も二もなく飛びつきました。
当然のことですが、この分野における蓄積は、アメリカと日本でかなり違います。アメリカ国内のアフリカ系に関する研究者はいうまでもなく、中南米におけるディアスポラ黒人の政治、文学、文化についての研究者の数も、日本とは桁が違います。米国と中南米諸国は、単に地理的に近いというだけではなく、歴史の根本的な部分を共有しているわけですから、ある意味でこれは当然のことなのでしょう(日本の東アジア研究と近いと思います)。現在まで、米国やキューバ、それからマルチニーク諸島に関連する本が取り上げられました。中南米の政治や歴史については素人同然の私はといえば、議論に追いつくだけで精いっぱい、ディスカッションに貢献することなどとてもとても、という状態なのですが、ここに集まる研究者の関心や議論の方向を知るだけでも勉強になります。
研究会はとても学際的で、参加者が所属しているのは、人類学部(文化人類学)、歴史学部、ロマンス語学部、それからアフリカン・アメリカン研究所と多岐にわたります(ただし、かれらの大半はアメリカ大陸の近現代史の研究者です)。参加者も若手の教員が中心ではありますが、ポスドクや大学院生も含まれていて、毎回の出席者は10名弱というところ。アフリカ史の中堅研究者と南米をフィールドとする若手のポストコロニアル研究者、それから移動の人類学をテーマとする大学院生などが自由に討論できる環境は、非常に刺激的です。