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世界遺産"胡朝城"遺跡保護区形成プロジェクト


図1 胡朝城と周辺域

 ベトナム・タインホア(Thanh Hóa)省ヴィンロック(Vĩnh Lộc)県のマー(Mã)川左岸に位置する胡朝城(Thanh Nhà Hồ)は、胡季犛(ホー・クィ・リー)が陳朝から皇位を簒奪して立朝し、明の侵略で潰えた胡朝(1400-1407年)の都です。この都城は皇城に相当すると思われるほぼ正方形の城郭(図1:東西877m×南北880m)がきれいに現存しており、城郭の外面(図 2)や内面基部は方形の切石できれいに外装されています。東西南北のそれぞれ門が設置され、そこから延びる主道は城郭中心部で交差しており、南門(図 3)と北門を結ぶ中心道(図4)は、南門(図5)からさらに南東方向に長く伸び、大きな板石が敷かれていたことが確認されています。南門からの主道の延長線上には南郊壇を南麓にもつ山があり、南郊壇(図6)は現在発掘調査が進められています。また、この南北の主道を北に伸ばすとTho Tuong山があり、この山と南郊壇の位置する山の間に都城が位置していることになり、当時の風水思想を体現した遺跡と言われています。また、こうした都城の中心構造のまわりには、周囲の山や丘陵をつなぐように羅城の土塁が廻らされているのも特徴の一つです。


図2 胡朝城城壁

図3 胡朝城正門(南門)

図4 皇城域内風景
北門の向こうにTho Tuong山が見える

図5 発掘の進む正門への通道

図6 南郊壇全景

図7 測量基準杭の設置

 当遺跡は、都市下に眠る遺跡と違って、周囲が農村域に囲まれていたため、大きな開発工事もなく、さらには皇城内での民家などの居住が進まなかったので、遺跡の残存状態が非常によいのが特徴です。しかも、非常に短期間しか存在しなかった王朝のため、遺構の重なり合いも少なく都城遺跡の基準遺跡としては格好の存在です。地上にはまだ当時の遺構や地割の存在が明確に認識できることが多く残っています(学術的価値については、西村昌也, 2011『ベトナムの考古・古代学』【同成社】のコラム:胡朝城をご覧下さい)。

 タインホア省は胡朝城保存センターを立ち上げ、考古学院との発掘調査を行いながら、世界遺産指定を目指してきました。ベトナム考古学院のレ・ティ・リエン(Lê Thị Liên)博士は、この世界遺産指定申請作業に関わり、その書類を執筆・編纂準備された方で、私の長年の研究パートナーでもあります。

 そして、2011年7月胡朝城はユネスコ会議により世界文化遺産に指定されました。 ところが申請まで時間的余裕がなかったこともあり、主要遺跡指定範囲は決定されているものの、バッファーゾーン(緩衝帯)の明確なエリア確定など、指定遺跡範囲の等級付けと管理法がまだ明確になっていません。

 今回、胡朝城保存センターの要請でリエンさんとともに、この胡朝城域の保存管理を実施する上で大事な、遺跡範囲や関係する地理的対象(集落、山、川)の明確な地理情報の収集と現在の土地利用状況や地籍との相関関係などを統合して管理するシステム作成に関わることになりました。そのためには、まず遺跡を含む正確な地図を作り、GISを利用して地理的情報をきちんと管理するデータベースを作成する必要があります。

 ただし、遺跡指定範囲は、ヴィンロック県の面積157km2の半分近くに及ぶ広大な範囲で、ベトナム考古学がこれまでに経験したことのない広大な面積を対象にしなくてはなりません。おそらく、これをもし正確無比なレベルでの測量作業から始めたならば、時間、経費、参加人数規模において膨大な投資をしなくてはならないことになり、少人数規模のプロジェクトでは実行が難しくなり、さらには遺跡保護に活用するまでに大変な時間を要することになります。一方、近年のGPSシステムを使った測量機は、非常に短い時間で10−20kmの距離を跨ぐような2地点間を非常に正確かつ速く、少人数で測量できるようになりました。これはレーザー式のトランシット測量機でトラバース測量などを行っていた時に比べれば、信じられないくらいの技術の進歩です。そこで、既存の地図資料を収集・応用して遺跡分布域の地理情報を管理するデータベースを立ち上げることをプロジェクトの第1段階としました。この第1段階において大切な作業は、GPS測量機において、測量基準点を設置することです。日本で十分な経験をお持ちの宇野隆夫(国際日本研究センター教授)氏と宮原健吾(京都市埋蔵文化財研究所)氏に参加をお願いし、基準点設置(図7)、地図資料収集、城郭内の地形観察等の基礎作業を始めたところです。また、この作業を通じて、胡朝城保存センターの人たちに遺跡の研究・保護・管理のノウハウをできるだけ多く習得してもらうことも狙いの一つにしています。









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