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アジャンターの愛すべきチョギダー達
私が最初にインドを訪れた1980年代末から、留学を含めて何度となく訪問しています。遺跡を研究する目的で、同じ場所を何度も訪れることがあります。アジャンターはその中でも高い頻度で再訪する場所です。
今回は、そのアジャンターでお世話になったチョギダーの人々とその仕事を紹介したいと思います。チョギダーとは遺跡の管理を任されている政府の役人で、現地で採用されることが多いようです。
アジャンターで働く人たちは、おおよそ4つの集団に分かれます。石窟の管理をする部署(administrative branch)、主に壁画の修復を担当する部署(chemical branch)、石窟の防犯や規律保持のための部署(security branch)、落石を防ぐ工事や歩道の拡幅整備を行う部署(maintenance branch)です。それぞれにおおよそ2つの階級(オフィサーとワーカー)があって、調査の合間に観察すると如実に上下関係がわかります。また部署相互の関係も微妙で、それぞれの仕事が縦割り担っていて自分の職分を超えないようにそれぞれが気を遣って調整しています。それぞれをアドミニストレイティブ,ケミカル、セキュリティー、ワーカーと呼んでいます。アドミニストレイティブの部署で働く人をチョギダーと呼びます。そういえば、公職ではありませんが、免許制になっているポーターと呼ばれる人たちいます。石窟をめぐるには、坂や階段が多いので、足腰の達者でない観光客向けに4人で担ぐ倚子を提供したり、大きな荷物を持ってあげたりします(図2)。
またガイドと呼ばれる人も免許制で、観光客に石窟のガイド、主に壁画の説明をします。現地のガイドはインドの公用語である英語、ヒンディー語に加え現地の言語マラティー語でガイドします。日本語のガイドもいますが、最寄りの大都市であるオーランガバード、または日本人ツアー客の旅行全体のお世話をするデリーから来ます。ガイドの説明を漏れ聞いていると、現地のガイドの方がやはり細かく、詳しく説明しています。親しくなったガイドは、専門書を読んで現在の研究も概要はフォローしようと努力しているということでした(図3)。第1窟の前は、大変混雑しますが、この中からガイドを雇ってくれる人を見つけ出します(図4)。
石窟の室外の掃除と、観光客の出入りを管理するのが、アドミニストレイティブの仕事です(図5,6,7)。石窟の入口ゲートとそれぞれの石窟に数人ずつ割り当てられますが、観光客の興味、一般的な学術的価値から石窟がおおよそ3つのランクに分けられています。壁画のよく残る第1,2,16,17窟が最上位の石窟です。次がストゥーパをまつる第9,10,19,26窟で、そのほかの石窟と続きます。
図6. 検札のチョギダー (石窟への入口ゲート) | 図7.石窟前での検札(第17窟) |
図10.石窟内の清掃(第12窟) | 図11. 第19窟 ファサードの蜘蛛の巣取りの作業 | 図12.水漏れ防止の処置(第10窟) |
図14.ポーズを取るセキュリティー |
ワーカーの人たちは、落石防止のための工事に始まり、観光客の利便性を図るための水飲み場の設置などの工事をしています(図15)。階段が多く工事器材が入らないので、石などはほとんど人力で運んでいます。
5時半には閉門します。多くの人は早く石窟の鍵を閉めて、帰り支度をはじめます。5時過ぎると、各石窟それぞれの立地による違いが見えます。入口ゲートに近い第1窟、第2窟では、「もっと他に見る石窟があるから早くしないと、全部見られない」といって、早く石窟から追い出そうとします。入口から一番遠い第26窟では、「今帰らないとゲートが閉まる」とこちらも観光客を追い立てて、5時15分には鍵をかけて帰り始めます。そのほかの石窟は、暗黙の了解でそれぞれに鍵をかけて帰り始めます。5時半過ぎにでるスタッフバスを逃すと30分ほど待たなくてはならず、さらに観光客と一緒で大変混み合うので、これを避けるためだというのが主な理由のようです。閉門間近には、一日の仕事を終えて、しばし開放感を感じるのか、記念写真風の写真を撮るようにいわれることがあります。(図16,17,18)
1.家に誘う;お茶でも夕飯でも、とにかく家に誘い、その後夕飯ごちそうしただろうということで、友人のような扱いをしたがります。石窟で調査していても、こいつは俺の友達だから、と、観光客相手に自慢が始まります。
2.外国製品をねだる;おまえの持っているそれは何だ、に始まって、自分の知らないものに対する興味、好奇心が旺盛です。最後には(最初からそうなのですが)、インドの通貨でいくらだ、今度持ってきてくれ、金は払う・・・・などと交渉が始まります。私の持ち物の中で一番人気は懐中電灯でした。調査用にかなり明るいものを持っていて、インド製の懐中電灯とは比べるべくもなく明るいのです。
3.飴をほしがる:日本でいうキャンディ、飴のことをなぜかチョッコレイトと呼びます。持っていないと、こちらも寂しくなるようなとても悲しい顔をされるので、安い飴を買っておいて、配って歩きます。高価なカメラや懐中電灯は高嶺の花でも、飴ならばもらえるとばかりに、一度にいくつもほしがります。
私は、あまり面倒ではなく、最も効果の大きいと考えられ、自分も楽しめるものとして、写真を撮ってそれをプレゼントとして、A4サイズの大判のコピーを渡すことにしました。彼らにとっては,私の次の調査まで1年近く、待たなくてはならないのですが、かなりのお金の掛かるものを無料でもらえる、さらに写真館で撮ったのではなく実際仕事をしている場で仕事中に撮った写真がもらえるということで、いい記念になるようです。私にとっては、調査を円滑に進めるための潤滑油の役割を十分に果たしてくれています。賄賂とはいいませんが、お互いに便宜を図るという暗黙の了解はあると思います。最近はもう5年目にもなるので、飽きられてきています。何か新しい方法を考えなくてはなりません。