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着任のご挨拶:吉田泰幸
このたび、国際文化資源学研究センターの特任准教授に赴任いたしました、吉田泰幸です。どうぞよろしくお願いいたします。
私の専門は東アジアの先史考古学で、平たく言えば大昔の、文字以前の文化の考古学的研究です。興味をもったきっかけは、おそらくは多くの考古学者がそうであるように、すでに地中から掘り出され、現代の我々の理解を超える造形や存在感とともにたしかにそこにある、またはそこかしこでまだ地中に眠っている先史時代の「モノ」に対する興味・関心、そしてそれらを生み出した文化、あるいはその背景について、少しでも知りたいという好奇心です。近年はそれに加えて、研究対象である先史文化と現代社会の関係も研究テーマのひとつです。「文化資源学」の名を冠する研究センターのスタッフとしては後者がますます重要課題となると思いますので、この一例を紹介して着任の挨拶としたいと思います。
私の研究対象のひとつは日本列島の先史時代である「縄文時代」ですが、その時代に作られた「縄文土器」として最も著名なもののひとつは現在の新潟県を分布の中心とする縄文中期の「火炎土器」とも称される土器です。「太陽の塔」で広く知られる岡本太郎の戦後の創作活動に大きな影響を与えたことでも著名で、「縄文」のアイコンのひとつです(この土器自体には文字どおりの「縄の目の文様=縄文」はないのですが)。この土器は国際的にも"Jomon"のアイコンで、ニューヨークのメトロポリタン美術館の「Arts of Japan」室では「Japanese Archaeology and Early Sacred Arts」の代表例としてキャプションの中に写真で登場し、展示室の中では単独でガラスケースに収められ、展示されています(写真1)。この春にニューヨークのアートの中心、チェルシー地区のギャラリーで開催された「Arts of Jomon」でも、この土器にインスピレーションを得た作品が出品されていました(写真2)。その他、「Arts of Jomon」の主要アーティストとオーガナイザーであるNPO団体代表にインタビューも行いましたが(写真3)、彼らが「縄文/Jomon」に惹かれる理由として、「Jomon先パイにはクリエイターとして学ぶものが多い」、「アニミズムへの興味」、「Sustainable」、「縄文には孤独という概念がない」、「JomonはHappyでFree」、「Native Japanese」といった言説、キーワードが浮上してきました。
これらを現代社会の諸事象の中でどう位置づけるかは今後の課題ですが、少なくとも「縄文/Jomon」は遠い過去の文化のみならず、芸術家や社会運動にも影響を与える、現在を生きる文化と言えそうです。例えばこうした現象を分析する事で、文化を未来志向の資源として考える本センターの趣旨の具現化にわずかながらでも、近づくことになるでしょう。自らの研究対象に関係する諸事象をメタ視点で俯瞰するのにはまだ長けていませんが、文化人類学の視点からこうした現象を研究しているスタッフも本センターにはいます。こうした他分野の研究者とも協力しながら、まだ曖昧模糊としている「文化資源学」の体系化に尽力したいと思います。