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着任のご挨拶:松村恵里
これまでは「伝統工芸」という畑違いの業界に身をおきながら、博士論文執筆のために金沢大学に足を運んでいましたが、この春から一人の職員として通うこととなりました。
研究における専門は文化人類学ですが、製作においては染色を専門としています。論文執筆のために、南インドの宗教的なデザインの寺院掛布と、それをつくる製作者たちを対象に研究を進めてきました。主に「モノ」を扱う領域に関する研究ですが、特に「つくる」という行為と密接に結びついた分野をテーマにしています。
現在、インドでは数多くの手工芸が、「伝統的」技術を維持しながら製作され続けていますが、それらは「未開発」ゆえに残されてきたのではなく、手工芸に対する復興活動が行われたことによって、「伝統的」技術が維持され、製作者が輩出されることになったという背景を有しています。その後、手工芸はインドにおける重要な産業の一つとなって、国内外に知られるようになっていきましたが、このような「伝統的」製作品は売買されることによって経済的な効果をもたらすだけではなく、「インドらしさ」を国内外に認知させる役割なども担うことになっています。ゆえに、手工芸を対象とした研究においては、どこ(だれ)が、なにを、なぜ、どのように開発するのか、などについての情報収集・分析は欠かせない課題となり、手工芸開発との繋がりは無視できない問題となります。ただし、開発する側と開発される側の間の認識に齟齬があるなど、単に経済性との繋がりのなかで、「伝統的」なモノを開発の対象として扱うことには問題も多く、インドでもそのような顕在化する課題について対処しきれていないことも、把握すべき現状のひとつといえます。
インドのみならず、モノをつくり、いかに活用してゆくかは、ヒトの力にかかってくることであり、このような「伝統的」手工芸開発において生じる問題に対応し、さらにより充実した質の良い開発への道筋を探るためにも、私は、「モノ」をつくる技術やそれを保持する「ヒト」にも注目しながら、両者の相互関係について如何なる視点からアプローチするかが、「つくられるモノ」を検討してゆくうえで重要と考えます。他地域におけるモノづくりなどとの比較もおこないながら、「つくる」ことを通して、「モノ」と「ヒト」両者の関係を考えることで生じるであろう看過できない課題に取り組むことで、モノが持つ潜在性をより明確化することが可能になると思います。
社会のなかでの「つくる」という実践を通しながら、「自明のこと」を自明のままにしておかない学問領域に携わることは、私にとって意義深いと同時に、一方では言葉にならないものを表現しようとしながら、また一方の研究においては、言葉に還元しようとする作業に苦心惨憺することになります。そんな自分の姿が奇妙で可笑しくもあるのですが、そのような言葉を扱う訓練が、また自身のモノづくりにも影響していると思います。
今後も自身の製作現場での実践とともに、調査対象に対して真摯に向き合い、地味ではあっても丁寧で詳細な調査・分析を繰り返すことで、文化資源の活用についての独自の視点も持てるようになればと考えています。