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サウジアラビアでの若手考古学者育成事業
サウジアラビアで新たなプロジェクトを始めました。
日本学術振興会の「二国間交流事業」の支援を受け、今年の9月から1年半の予定です。プロジェクト名は、「サウジアラビア、タブーク州における初期遊牧民の考古学的研究」(代表・足立拓朗)。サウジアラビア考古観光委員会、キング・サウード大学と共同で、先史時代遺跡の考古学調査を行いますが、ただ調査するだけでなく日本や相手国の研究者と協力して若手研究者を育成することも大きな目的です。本コラムでは、サウジアラビア・日本の若手考古学者が発掘現場で奮闘する姿を紹介したいと思います。
タブーク州はサウジアラビア北西部に位置し、金沢大学が調査を継続してきたヨルダンの南に位置しています。ヨルダンで実施してきた考古学調査をさらに南のアラビア半島で展開させることが金沢大学の目的です。サウジアラビアというと沙漠の国という印象があると思いますが、タブーク州は農業が盛んな地域で、オリーブ畑なども広がっています。州都のタブークは立派な近代都市です(写真1)。
現在、タブーク州では巨大な州立博物館を建設中です(写真2)。最近、鉄道博物館が開館しましたし(写真3, 4)、従来から開館していたタブーク城博物館も改装オープンしています(写真5)。このように近年、タブーク州は文化遺産の保存・活用に精力的に取り組み始めています。そのような中、金沢大学の藤井純夫教授はサウジアラビア考古観光委員会と協定を締結し、タブーク州と隣接するジョウフ州での考古学調査を開始しました。タブーク州の文化遺産関係職員による協力体制は万全で、昨年度から本格的な共同調査が始まっています。
筆者の「二国間交流事業」は、この共同調査の一環として位置づけられます。特にサウジアラビアおよび日本の若手考古学者の育成に取り組んでいます。サウジアラビア側では、リヤドや地元のタブーク州の職員が熱心に活動していますし、金沢大学からはフィールド文化コース4年の村上栞さんが調査に参加しました。また測量会社に勤務する金沢大学OGも調査に加わっています。サウジアラビアでは女性は独特の衣装を身につけねばなりません(写真6)。現地の習慣に合わせて行動するのは、海外調査の難しいところでもあり、醍醐味でもあります。
今年の調査は9月下旬〜10月初旬まで行われました。真夏ではないものの、まだ相当暑く、困難な調査となりました。調査地はワディ・グバイ遺跡とワディ・シャルマ遺跡で、測量および発掘調査を実施しました。ワディ・グバイ遺跡は荒涼とした山岳地帯に位置する遺跡です(写真7)。初期遊牧民の遺した多くの遺構が発見されており、その位置や形状を記録しました。一つ一つの遺構の写真撮影や計測を実施し(写真8)、またその位置を地図上に記録していきます(写真9)。根気と丁寧さが要求される作業です。筆者は8、9月のヨルダン調査の後、そのままサウジアラビアに入国して調査を続けていたので、はじめから体力不足でした。あまりの暑さにすぐに疲れて、ぐったりしてしまいました(写真10)。そのような暑さ中、サウジアラビア・日本の若手考古学者は測量・発掘と多様な任務をこなしていきました。
右に見えるのが円形の祭祀遺構 |
しかし強風ですぐに撤去 |
ワディ・グバイ遺跡における発掘調査は円塔形の積石墓に対して行われました。サウジアラビア・日本の隊員が慎重に掘り進め、その構造を明らかにすることができました(写真11)。本格的な発掘調査が初めての若手考古学者には良い経験になったようです。タブーク州の考古職員のはしゃぎぶりが印象的でした(写真12)。
ワディ・シャルマ遺跡は紅海沿岸近くの遺跡ですが、周りにはやはり荒涼とした風景が広がります(写真13)。この遺跡では、主に地形測量調査を実施しました。レーザー測量機器を使用した最新の測量調査に両国の若手考古学者が参加しました(写真14)。特にリヤドから参加したイブラヒム氏はこの測量調査に精力的に取り組み、測量方法を修得するだけでなく、危険な斜面の作業も自ら進んで行いました。指導する筆者のほうが疲労で倒れそうになってしまいました(写真15)。
西アジアの砂漠地帯の調査では、パンクやスタックなど車両のトラブルの対処が重要です(写真16)。そのような技術も若手考古学者が修得しなければならない技術の一つです。トラブルを楽しむことができるようになれば一人前と言えるでしょう(写真17)。過酷な砂漠地帯の調査の中で、楽しみの一つは地元の遊牧民との交流です。思いがけない遺跡の情報を入手することもありますし、彼らから料理をご馳走になる時もあります(写真18)。
フェンスで保護された部分 |
今回のプロジェクトでは、過酷な環境における短期間の調査にも関わらず、測量・発掘などの考古学の基礎的な技術を若手考古学者に伝えることができました。当初は語学の問題などでトラブルを想定していましたが、殆ど問題なく研修を進めることができました。サウジアラビア側の参加者は若手とは言え、ある程度の考古学的調査の経験者であり、新しい技術を覚えようとする熱意があったこと、また日本側の参加者は事前に十分に測量実習を受けていたことが、プロジェクトの円滑に進んだ原因と言えるでしょう。12月に再度サウジアラビアで本プロジェクトを実施しますが、事前の準備を鋭意進めているところです。熱意のあるサウジアラビアの若手考古学者が参加してくれることでしょう。
最初にご紹介したように、タブーク州では州立博物館が建設中であり、本プロジェクトで研修を受けた若手考古学者が博物館運営で活躍することが大いに期待されます。また各遺跡の保護・活用にも活かされることを願っています。