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ヨルダン・アカバ、オーストリア・ウィーンで招待講演をしてきました

 共に招待学会での研究発表です。アカバ学会のテーマは、「Development of Early Settlement in Arid Regions(乾燥域における初期集落の発展)」。主催はドイツ考古学研究所(Deutsches Archäologisches Institut)で、本年11月12日からの4日間、ヨルダン南部の港湾都市アカバのホテルで開催されました(図1)。

図1 アカバ学会の参加者


私に依頼された発表テーマは、「Prehistoric occupation of Wadi Abu Tulayha, Jafr Basin(ジャフル盆地ワディ・アブ・トレイハ遺跡における先史時代の居住)」です。2006年から2009年までの4年間にわたって発掘した先土器新石器時代の移牧出先集落について、現段階における研究の総括を示しました。活発な質疑応答が行われ、新たな刺激を得ることができました。最終日には遺跡見学が組み込まれており、当時の発掘担当者と現場で直接意見交換して知見を深めることもできました(図2, 3)。アカバは暖かく、海浜観光都市特有の開放感も有り、そもそも勝手知ったる街でもあったので、本当に楽しい学会でした。なお、この学会での発表成果は、来年早々にドイツ考古学研究所叢書の一つとして出版の予定です。


図2 アイン・アブ・ネレイヘ遺跡(先土器新石器文化B)の見学

図3 フジャイラート・アル・グウズラーン遺跡(前期青銅器文化)の見学

 一方、ウィーンでの学会「Archaeology of North Arabia: Oases and Landscapes(北アラビアの考古学:オアシスと景観)」は、12月5日と6日の二日間にわたって開催されました。主催はウィーン大学中東研究所(Institut für Orientalistik)、会場は同大学のシュピタールグラッセ・キャンパスです。私は「Archaeological Investigations at the Burial Fields of Wadi Ghubai, Tabuk Province, NW Arabia(北西アラビア、タブーク州、ワディ・グバイ古墳群の考古学的調査)」と題して、足立拓朗准教授等の協力を得て昨年から始めた、サウジアラビアでの遺跡調査について報告しました(図4, 5)。サウジの考古学調査は歴史時代の都市遺跡が中心なので、私のような先史遊牧民遺跡の調査は希なのです。しかしサウジ文化の根源はそこにあるわけで、それだけに期待も大きく、「もっと大規模に調査してはどうか」などといった無理な注文も寄せられました。発表者20人、参加者50人程度の小規模な学会でしたが、活発な意見交換が行われ、私にとっても実に有益でした。企画したウィーン大学の意図も、まさにその点にあったようです。辛かったのは毎晩レストランでの食事会(ただし質素な食事会)があり、そこでも再び意見交換が行われたことで、有り難いやら、眠いやら、ほとほと疲れました。なお、この学会での発表も、ウィーン大学から近く出版の予定です。12月のウィーンは寒く、街はクリスマス・ムード一色でした(図6)。合間にフロイトの記念館にも行ってきました(図7)。


図4 ウィーン大学での研究発表

図5 ウィーン大学での研究発表

図6 クリスマス・ムードのウィーン市街

図7 ジークムント・フロイト記念館の展示室

 以上、二つの学会について報告しました。実は、もう一つ、ワルシャワ大学からも招待されていたのですが、夏季調査の一週間後だったため、丁重にお断りしました。今思えば、もったいないことをしたものです。

 さて、こう言うと、西アジア考古学の世界ではよほど頻繁に国際学会が開催されていると思われるかも知れませんが、そうではありません。今年は特殊事情が重なって、頻度が上昇しただけのようです。私自身も参加して初めて気づいたのですが、今回招待された二つの学会(ワルシャワの学会も含めれば三つの学会)は、実はドイツ、オーストリア、ポーランドの各大学・研究所が新しいフィールドに参入するための準備を兼ねた学会でした。つまり、こういうことです。イラク、シリア、エジプトなど、従来の主要なフィールドでの調査が近年の政情不安のため中断しているので、多くの調査団が、ヨルダンやサウジアラビア、湾岸諸国など、比較的安定したフィールドへの転身を余儀なくされている。とは言え、新たなフィールドへの参入は容易なことではない。そのため、現地の埋蔵文化財関係者(考古局局長など)や、その国ですでに調査を実施している他国の研究者などを招待して情報収集すると同時に、今後よろしくとの挨拶も兼ねる。また、これによって新規の調査許可証取得に向けた流れを作り出す。そうした狙いを秘めた戦略的な学会なのでした。

 ヨーロッパの大学や研究所は、こういうことをするわけです。なるほどなあ、と感心しました。ちなみに私自身のヨルダン調査やサウジ調査は、まったくの極楽トンボ。念の入ったことは、一切していません。単にやらして下さいと願い出ただけです。知らないというのは恐ろしいもので、それで通ってしまいました。しかし、偶々うまくいったから良いものの、今から思えば全くの世間知らずで、お恥ずかしい限りです。ドイツ考古学研究所やウィーン大学などのやり方を見て、よく分かりました。海外での大型プロジェクトを立ち上げるには十分に戦略を練り、周到な準備をするのは無論のこと、申請以前から現地関係当局との人脈を作り、海外の大学・研究組織とも連絡してその情報を前もって取り込む。そういったことが、普通に行われているわけです。また、この段階から予算が付くのです。いやはや、線の細い我々日本人にはしんどい作業ですが、そうした戦略と戦術、礼儀と狡知、がグローバル・スタンダードなのでしょう。我がセンターの今後にも関係することなので、一言申し添えた次第です。もっとも、私自身はすでに高齢なので、これまでの呑気なやり方を変えるつもりはありません。変えたくても無理。世間知らずの若旦那路線で、淡々と調査を続けていくつもりです。

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