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東文研の『史跡整備と展示に関する人材育成ワークショップ』に参加
7月3日、4日、東京上野の東京文化財研究所(以下、東文研)で開催された「史跡整備と展示に関する人材育成ワークショップ」に、金沢大学大学院人間社会環境研究科の文化資源マネージャー養成プログラム学生と博士課程後期の大学院生と参加しました。国際文化資源学研究センターは、本ワークショップに共催という形で参画しています。東京の後、ワークショップは奈良でも開催されましたが、こちらについては秦小麗先生のコラムをご参照ください。
私は、前職が東文研の特別研究員であった関係で、今回金沢大学の学生の引率も兼ねて、ワークショップに参加いたしました。ここではワークショップに参加した雑感を綴りたいと思います。
東文研は、文化遺産の調査研究や保存修復を行う専門機関として、国内外において様々な活動を行っています。中央アジア諸国における文化遺産の保護にも積極的に関わってきました。現地に日本人専門家が赴き、文化遺産を守るための支援活動を行うことはもちろん大事なことですが、持続的な文化遺産の保護を展開していくためには、現地の「人」を育成する必要があります。そこで東文研は、長年、中央アジアの現地専門家を日本に招へいして、日本の優れた技術や文化遺産の保護・活用の実例などにふれる研修を実施してきました。今回のワークショップもこうした考えのもとで企画されたものです。
ところで、今年もユネスコ「世界遺産」に登録される遺産が決まりました。6月にカタールで開催された同委員会では、「シルクロード:長安・天山回廊の交易路網」(Silk Roads: the Routes Network of Chang’an-Tianshan Corridor)として、シルクロード沿いの中国、カザフスタン、キルギスタンの文化遺産が登録されました(詳細はユネスコ・世界遺産センターのHP参照)。最近見られるようになった、「道」という概念を使って、「複数の国」の「複数の文化遺産」を一括して登録する手法です。シルクロード沿いにはまだまだ世界遺産クラスの古代都市や歴史的建造物がたくさんありますが、保存状態や整備体制に問題を抱えている遺産が多いのも実情です。
そこで、今回のワークショップでは、中央アジアの専門家を対象として、史跡整備や文化遺産の展示をキーワードにした研修が企画されました。本ワークショップでは、キルギスタンやアフガニスタンから総勢6名の専門家が招へいされました。これに加えて金沢大学からは、5名の外国人留学生と3名の日本人大学院生が参加しました。
私たちが参加した2日間の研修は、まず東文研の各部局の見学から始まりました。無形文化遺産部では、無形文化遺産の音声・映像記録の施設を見学しました。東文研内に設けられた実演記録室(舞台)や畳の間からなる控室に、外国人研修生は興味津々でした(図1)。次いで保存修復科学センターでは、紙や漆の文化財の修復現場を訪れ、貴重な修復作業の一端を垣間見ることができました。
さて、2日間のワークショップそのものは、文化遺産国際協力センター内の一室で行われました(図2)。ワークショップでは、講師陣による講義の後(図3)、講師と研修生による質疑応答やディスカッションが行われました(図4)。講義タイトルを紹介すると、初日が、「日本の文化財保護」、「史跡整備」、「日本考古学概説」、そして2日目が、「日本の埋蔵文化財行政と保存修復」、「伝統的建造物保存地区」、「博物館論+展示論」(東京国立博物館にて:図5)。このように、日本における文化遺産の保護とその現状について、多岐にわたって学ぶことができるプログラムが組まれました。私も、かつて同じような研修を担当していたことがありますが、その頃に比べても、研修の内容が多彩になり、研修の進行や通訳の仕方などが格段に良くなったと感じました。ワークショップの講師の先生方、また東京文化財研究所の所員の皆様には、この場を借りてお礼申し上げます。
また、本学の大学院生によって「文化資源マネージャー養成プログラム」の活動内容も紹介され(図6)、他のワークショップ参加者にも国際文化資源学研究センターの活動の一端を理解してもらえたかと思います。 ワークショップに参加した本学の大学院生にとっては、いろいろな意味でいい経験になったと思います。何よりも体系的に日本の文化遺産の保護について学ぶことができたのでないでしょうか。また、ワークショップ後の懇親会では、キルギスタンやアフガニスタンの専門家と意見交換をすることもできました。横目で見ていましたが、日ごろ会う機会の少ない国の人々との異文化コミュニケーションの機会にもなったように思えます。
今年の3月に、金沢大学は東文研と大阪のみんぱくとの間で文化資源学分野における研究協力協定を結びました(詳細はこちら)。これからも、この協力協定を基盤にして、今回のような研究者や学生が参画する活動を継続させたいと思います。こうした交流が、大学教員や学生にとってよい刺激になることは間違いありません。