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「天の川プロジェクト」:北スペイン・ポルトガル訪問記
田村うらら
先月、学生交流プロジェクト「VIA LÁCTEA(天の川)プロジェクト」の教職員派遣制度で、スペイン・ポルトガルの二大学を訪問して来ました。このコラムでその報告をいたします。
このプロジェクトは、文部科学省の「平成26年度大学の世界展開力強化事業~海外との戦略的高等教育連携支援~ICI-ECPプロジェクト」および日本学生支援機構(JASSO)の「平成26年度海外留学支援制度(短期派遣・ICI-ECP型)」に採択された金沢大学を日本側の代表校とする日欧間の学生交流プロジェクトです。3年間のプロジェクト期間中に計40名の学生交流と計28名の教職員の交流を行なうことになっています。
参加校は、欧州側がスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学(以下USC)とポルトガルのミーニョ大学、日本側が愛知県立大学と金沢大学の4大学です。初年度の本年は、各大学から3名ずつの学部生が選ばれ、日本側からの6名が欧州側の大学へ、欧州側からの6名が日本側の大学へ留学し、さまざまな講義や実習等に参加します。今回筆者は、日本側からの学生がUSCとミーニョ大学にそれぞれ1ヶ月半ほど留学するのに合わせ、本学国際機構の太田亨教授の引率に同行することになりました。
2月16日夕刻、関空で愛知県立大学からの学生3名と合流し、空路イスタンブル経由でサンティアゴ・デ・コンポステーラ空港へ。そしてさらにバスでルーゴLugoという、ローマ時代の城壁にぐるりと囲まれた街へと着いたのは、現地の17日18時を回っていました。金沢の家を出てからホテルまで38時間の長旅です。
USCの人文学部(図1)のあるルーゴキャンパスでは、JoDee Anderson McGuire人文学部教授(言語学・英語教育)を中心に、たくさんの方々に温かく迎えていただきました。19日には、太田教授と私が特別講義をする機会があり、私は”Considering Traditional Ethnic Handicrafts in the Era of Globalization: A Case Study of Turkish Carpets”「グローバリゼーション時代の伝統的民族手工芸を考える:トルコ絨毯の事例を通して」というタイトルで、自分の研究に加え、国際文化資源学研究センターやCRMプログラムの紹介をしました(図2)。
図1 USC人文学部玄関 | 図2 USCでの特別講義でCRMプログラムの説明をする |
スペインの生活時間については「シエスタ」が有名ですが、ランチが14時以降、ディナーが20時以降とかなり遅いことは、案外知られていないかもしれません。8時間の時差とともに、この生活リズムに慣れるまで少し時間を要しました。ただ、10時半頃、コーヒーブレイクを取るのが慣例となっているようで、学内のカフェテリアにはコーヒーとともに少しつまむ程度の食べ物もあります。なお、大学の先生たちは、ランチを家で取る人が多いようです。会議のない日は自宅と2度往復しなくて済むよう、遅いランチブレイクの前か後のいずれかに講義を固めておくのだとか・・・
ところでこの天の川プログラムは、「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路と熊野古道」という世界遺産をテーマとし、将来、国境を越えて活躍できるような文化資源学分野における人材を育成することを目的としています。本センターが受け皿となっている大学院プログラム「文化資源マネージャー養成プログラム」(以下CRMプログラム)と目的意識が非常に近いと言えます。また実際、4月から欧州側の学生6名を本学に受入れるにあたり、CRMプログラムが提供する研修・フィールドワークの授業にも参加してもらうことになっています。そのような経緯があり、今後の研究上の連携のプラットフォームづくりが、今回の訪問の目的のひとつでした。
さて、ルーゴでは、ルーゴキャンパス副学長María do Carme Silva Domínguez氏を表敬訪問したほか、Maria Isabel Gonzalez Rey ルーゴキャンパス人文学部長など人文学部の教授たちと交流の機会がありました。また、文化資源に関連して、いくつもの博物館に加え、ユネスコ世界遺産となる修道院や城壁見学の機会も得ました。
ミトラ寺院博物館は、USCのルーゴキャンパス副学長室のある建物敷地内、ルーゴの大聖堂とローマ時代の城壁との間にあります。ローマ帝国下で発達し、まだ不明な部分の多いミトラ教の寺院が近年の発掘で見つかりました。その発掘担当者であるUSCの考古学者Celso Rodrigues Cao氏の案内で、ミトラ寺院博物館の見学をしました(図3)。ここで見られるのは地下の遺構そのものです。狭い空間のなかで建物が崩壊してはそれを材料にまた改築を繰り返して、幾重にも重なった人の生活と信仰の跡を非常にうまく見せるように工夫・整備されていると思いました。ここからの各時代の出土品は、現在国内外の研究所等で分析中とのことで、それが数々の新たな発見をもたらしてまたここに戻って展示されるとさらに深みのある面白い博物館になると期待が膨らみます。
また、Centro de Artesanía e Deseñoという、このルーゴの属する北スペイン、ガリシア地方の職人による工芸を中心とした博物館には、非常に充実した楽器の展示があり、さらには様々な楽器を修復・再現する工房が併設されていました。これはとてもユニークだと思います。スタッフのアントーニオ氏が楽器製作の工程や木やニスなどの材料について、とても熱の入った大談義を展開してくれたのが印象的でした。
ルーゴは雨天が多かったのですが、週末の雨の合間に、全周2km程度のルーゴの城壁の上をぐるりと徒歩で一周しました(図4)。緩いスロープで上がれる箇所もあり、「世界遺産」の上でジョギングや犬の散歩を楽しむ市民の姿が見られました。
図3 ミトラ寺院遺構 |
図4 ルーゴの城壁の上よりの眺め |
図5 ミーニョ大学での特別講義 |
図6 ミーニョ大学副学長との昼餐会 |
ポルトガルの北部、ブラガという街にあるミーニョ大学では、実質1日しか時間がありませんでしたが、卓越したオーガナイザーのミーニョ大学国際課長Adrianaさんのおかげで、大変充実した1日を過ごしました。ポルトガルを代表する研究大学のひとつであるミーニョ大学の、非常に充実した教育研究体制について紹介を受けたあと、USCと同様、人文学部で太田教授と私の特別講義(図5)をしました。そして学内のレストランでRui Vieira de Castro副学長を交えて歓待を受けました(図6)。人文学部には、主に言語学や文学を専門とする研究者がいますが、人類学・社会学がいないため、急遽その場に社会学部のEmília Rodrigues Araújo教授も呼んでくださり、彼女と将来的な研究連携の可能性を探るべく、歓談しました。午後は人文学部長・副学部長、東洋学専攻の先生方とミーティングの機会を得ました。
その後、大学が手配してくれたタクシーに乗り、郊外のティバエス修道院を見学しました。スペインとは異なりポルトガル国内の修道院は、現在どれも修道院として機能していないとガイドに聞いて非常に意外に思いました。このティバエス修道院も、現在国の管理下にあり、来訪者が見学できるようになっています。広大な敷地に鎮座する現在の建物は17世紀に再建されたもので、隣接するバロック様式の教会は、白地に金色がまばゆく、壮麗という言葉がぴったりでした(図7)。
天の川今回の教職員訪問と日本側からの留学生派遣を皮切りに、4月からスペイン・ポルトガルの両大学から6名の学生を本学(そしてCRMプログラムの研修)に迎えるほか、研究者や担当事務職員の本学訪問も6月以降に予定されています。CRMプログラムの学生のみならず、私たちセンターのスタッフにとっても研究上の良い刺激になると期待しています。 |