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新刊学術書のお知らせ:Stone Age of Armeniaの出版
日本学術振興会の「二国間交流事業」によるプロジェクト「コーカサスにおける先史時代遺跡の立地と景観に関する考古学研究」(代表・藤井純夫教授)の成果として、次の書籍を出版しました(図1、2)。
Boris Gasparyan and Makoto Arimura (eds.), Stone Age of Armenia. A Guide-book to the Stone Age Archaeology in the Republic of Armenia, Monograph of the JSPS-Bilateral Joint Research Project, Kanazawa: Center for Cultural Resource Studies, Kanazawa University, 2014, 360p.
本書は、石器時代のアルメニアに関する英語の論集で、旧石器時代から銅石器時代までの最新の研究成果を収録しています。アルメニアの先史時代研究を通史的に扱ったのは、本書が初めての試みで、現時点での研究の到達点を確認できるのと同時に、今後の研究の方向性や将来の展望についても触れています。目次は以下の通りです。
Introduction
Pavel Avetisyan and Sumio Fujii
Study of the Stone Age in the Republic of Armenia. Achievements and Perspectives
Boris Gasparyan and Makoto Arimura
PALEOLITHIC
Recently Discovered Lower Paleolithic Sites of Armenia
Boris Gasparyan, Daniel S. Adler, Charles P. Egeland and Karen Azatyan
The Middle Paleolithic Occupation of Armenia: Summarizing Old and New Data
Boris Gasparyan, Charles P. Egeland, Daniel S. Adler, Ron Pinhasi, Phil Glauberman and Hayk Haydosyan
Living the High Life: The Upper Paleolithic Settlement of the Armenian Highlands
Boris Gasparyan, Andrew W. Kandel and Cyril Montoya
EARLY HOLOCENE / NEOLITHIC
Early Holocene Sites of the Republic of Armenia: Questions of Cultural Distribution and Chronology
Arthur Petorsyan, Makoto Arimura, Boris Gasparian and Christine Chataigner
Aknashen – the Late Neolithic Settlement of the Ararat Valley: Main Results and Prospects for the Research
Ruben Badalyan and Armine Harutyunyan
Preliminary Results of 2012 Excavations at the Late Neolithic Settlement of Masis-Blur
Armine Hayrapetyan, Kristine Martirosyan-Olshansky, Gregory E. Areshian and Pavel Avetisyan
On Neolithic Pottery from the Settlement of Aknashen in the Ararat Valley
Armine Harutyunyan
CHALCOLITHIC
About Some Types of Decorations on the Chalcolithic Pottery of the Southern Caucasus
Diana Zardaryan
Weaving the Ancient Past: Chalcolithic Basket and Textile Technology at the Areni-1 Cave, Armenia
Lyssa Stapleton, Lusine Margaryan, Gregory E. Areshyan, Ron Pinhahi and Boris Gasparyan
Late Chalcolithic and Medieval Archaeobotanical Remains from Areni-1 (Birds’ Cave), Armenia
Alexia Smith, Tamara Bagoyan, Ivan Gabrielyan, Ron Pinhasi and Boris Gasparyan
Forest Exploitation during the Holocene in the Aghstev Valley, Northeast Armenia
Makoto Arimura, Boris Gasparyan, Samvel Nahapetyan and Ron Pinhasi
Transition to Extractive Metallurgy and Social Transformation in Armenia at the End of the Stone Age
Arsen Bobokhyan, Khachatur Meliksetian, Boris Gasparyan, Pavel Avetisyan, Christine Chataigner and Ernst Pernichka
Rock-Painting Phenomenon in the Republic of Armenia
Anna Khechoyan and Boris Gasparyan
Discovery of the First Chalcolithic Burial Mounds in the Republic of Armenia
Firdus Muradyan
List of Authors
本書企画のきっかけは、筆者が頭脳循環プログラムで実施したセミナー(図3~5)の要旨集を計画したことでした。しかし、アルメニア側共同研究者と相談していくうちに、アルメニア先史時代の概説書となるような書籍の企画に変わっていきました。というのも、アルメニア考古学に関する概説書は、アルメニア語、ロシア語、英語にもほとんどないのです。もちろん私たち研究者によって、年に何本も論文が発表されていますが、最近の研究成果に基づきアルメニアの考古学事情を紹介した書籍はありませんでした。そのために、海外の研究者にとってはアルメニア考古学の実情が分かりにくく、また、地元のアルメニア人学生にとっては、自国の考古学を学べる良書がないという状況をまねいています。
そこで、アルメニア先史時代に関する本を企画するにあたり、次の2点を基本方針としました。1つは、最新の考古学成果を含めること。もう1つは、概説書としても利用できるように、重要な遺跡や文献一覧を網羅すること。これらを重視して、論考を集めることにしました。
さて、実際に本書の内容を立案していくと、先に述べた2013年に実施したセミナーの発表者だけでは、カバーできない分野があることが分かりました。そこで新たに、アルメニア人研究者だけでなく、アルメニアで調査を行っている欧米の研究者にも執筆を依頼することにしました。
出版にいたるまで、何よりも大変だったのは、論考を集めるのに時間がかかったこと、それから、本全体を通しての用語の統一、参考文献のチェック等に膨大な手間がかかったことです。とはいえ、いろいろな国籍の著者による論集が、計画から1年でなんとか出版できたのは、本書の企画に賛同してくれた著者一同の熱意のたまものでした。
アルメニアは国内の研究者が熱心に考古学調査を実施している国の一つだと思いますが、その一方で、毎年生み出される考古学成果をまとめた一般向けの書籍がほとんどありません。研究成果はあくまで研究者のものであり、それらを社会で活用するという点が大きく遅れているように思われます。今回は筆者の専門ということで先史時代を対象とした本を出版しましたが、この後、青銅器時代、鉄器時代、古典期、中世へと時代幅をひろげた同じような趣旨の本が必要だと考えています。あわせて、平易な文章で書かれたアルメニア語による一般書の企画も、アルメニア側に提案しています。文化遺産分野の国際協力の一つとして、こうした地道な活動を続けていきたいと思います。