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アルメニア科学アカデミーでの共同出版祝賀会に出席、併せて今後の研究協力について協議してきました。 

                                             藤井純夫

本年3月3日から同7日まで、日本学術振興会二国間交流事業(共同研究)の一環でアルメニア共和国の科学アカデミーを訪問し、併せて今後の研究協力について協議してきました。その様子を報告します。

講義用テキストの共同出版祝賀会
 ドバイ経由で首都エレヴァンのズヴァルトノツ空港に到着したのが、3月3日の夕刻。長旅で疲労困憊していたため、この日はホテルに入って直ちに熟睡しました。
 翌日は快晴。早速、アルメニア科学アカデミー(図1)を訪問し、大学講義用テキスト『Stone Age of Armenia(アルメニアの石器時代)』の共同出版祝賀会に出席しました。このテキストは、筆者が代表者、有村誠准教授が実務担当者となって進めてきたアルメニアとの二国間交流事業「コーカサスにおける先史時代遺跡の立地と景観に関する考古学研究」(平成25年8月〜同27年7月)で企画した出版物の一つです。科学アカデミー考古・民族学研究所所長のパヴェル・アベティスヤン博士(Pavel Avetisyan)と筆者の二人が監修し、同研究所研究員ボリス・ガスパリアン博士(Borris Gaspariyan)と有村誠准教授の二人が編集。執筆者には、上記二名の編集者のほか、アルメニア国内外の主立った考古学研究者十数名が加わっています。金沢大学国際文化資源学研究センターから出版されました。
 本著の特徴は、名義上の共同出版ではなく、(頭脳循環プロジェクト時代を入れて過去3年にわたる)研究協力・合同調査をベースにした出版であること、また単なる学術専門書ではなく、大学講義用テキストとしての機能を持たせたビジュアルな本であることです。そのため、図表を多用しました。アルメニアではこれまで大学生向けの適当なテキストがなかったため、教育に支障を来していたとのことで、早速企画を練り始めたのはよいのですが、その後が大変でした。何かにつけてゆったりペースの相手方を懇願または叱咤激励し、着想から出版までを1年少々でやり遂げたわけで、さすが日本だと感心されました。この点、有村准教授の貢献が大であったことを付記しておきます。なお、本著についてはこのHPの別の場所でも紹介されていますから、詳しくはそちらをご覧下さい。本書をベースに、平易な文章で綴った一般向けのアルメニア語版テキストも近く出版する予定です。

 祝賀会では科学アカデミー総裁のレディク・マルティロスヤン博士(Radik Martirosyan)の祝辞の後、筆者も日本側を代表して挨拶しました(図2、3)。(有村准教授が諸般の理由で渡航を見合わさざるを得なかったことが、悔やまれます。)その後、共同編集者のガスパリアン博士による記念講演が行われました(図4)。講演では早速このテキストを用いましたが、図表が多く分かりやすいと、参加者にも大好評でした。祝賀会にはテキスト執筆者は無論のこと、科学アカデミーの理事・会員、アルメニア考古学を専門とする研究者・大学院生・学生らも集い、大盛会でした(図5)。
  祝賀会の後には底冷えのするホールで簡単な立席パーティーが催され、相互交流を深めました(図6)。私の専門とする中東の諸国もそうですが、アルメニアも日本には大きな期待をかけています。ただし、あくまでも対等のお付き合いが大事で、一方的な予算・機材供与などは望んでいません。それだけのプライドがあるからです。研究と研究をぶつけ合い、互いに切磋琢磨していきたいとのことで、それこそこちらの望むこと、大いに意気投合しました。
 祝賀会・記念パーティーを終えた後、本年1月に開設したばかりの在アルメニア日本国大使館を表敬訪問し、上記テキストを献呈しました。また、アルメニアにおける金沢大学のこれまでの活動について説明し、今後の支援を要請しました。


図1 アルメニア科学アカデミー本館

図2 左から順に、ボリス・ガスパリアン博士(科学アカデミー考古・民族学研究所研究員)、筆者、レディク・マルティロスヤン博士(アルメニア科学アカデミー総裁)、パヴェル・アベティスヤン博士(科学アカデミー考古・民族学研究所所長)、ユーリ・スヴァリヤン博士(同副総裁)

図3 レディク・マルティロスヤン博士(右)と談笑する筆者(左)

図4 テキストの図版を用いて講演するボリス・ガスパリアン博士

図5 テキストを片手に講演を聴く出席者

図6 アルメニアの若手考古学研究者と共に

共同調査フィールドの事前踏査
 続く5日と6日の二日間は、今後に予定している共同調査のフィールド候補地で事前踏査を行いました。具体的には、首都エレヴァン南東の丘陵地帯がそれです。この地域には、石器製作の原材料となるフリントや黒曜石の露頭があるだけでなく、新石器時代や銅石器時代の集落、ダムなどの水利施設(図7)、青銅器時代とおぼしき墳墓群、ヘレニズム時代の神殿址(図8)、ビザンツの教会・修道院(図9)、民族工芸の盛んな伝統的集落など、多様な文化遺産が含まれており、調査フィールドとしてきわめて有望であることが確認できました。
 この共同調査では、考古学だけでなく、これらの多様な遺跡群をもカバーできる包括的な研究体制、つまり美術史や文化人類学、地質学、動植物学などを含めた学際的な研究組織を組みたいというのが相手方の意見でした。本センターも新たな課題ユニットを組んで、これに取り組むことになるでしょう。こうした総合共同調査を契機に学際的な新ユニットが形成されるとすれば、うれしいことです。これはセンターの将来にも資することであり、今後大いに推進すべきと考えます。
 例年になく暖かなアルメニアでしたが、さすがに山岳地帯の踏査だけは猛吹雪に見舞われ、散々な目に遭いました(図10)。しかし、冬のアルメニアを実感することができたのは貴重な経験で、途中立ち寄った民家で供された昼食も心温まるものでした(図11)。

今後の研究協力体制
 最終日7日の午前は、関連研究施設を訪問し、今後の研究協力体制の構築について協議しました。協議では、幾つかの話題が取り上げられました。第一は、本学とアルメニア科学アカデミーとの研究協力協定に向けた相互の意思確認です。無論、双方共に異論はなく、今後早急に詳細を詰めて、なるべく本年中に合意書を締結したいという基本方針を互いに確認しました。
 第二は、合同調査を通した学融合推進の具体的方策に関する協議です。そのため、国立イェレバン大学、応用生命科学基幹研究センター(Center of Excellence in Applied Biosciences)を訪問し、准教授のネリ・ホブハニスヤン博士(Nelli Hovhannisyan)と会談。遺跡出土生物化石の遺伝子解析分野での研究協力について、基本合意を得ました。文理融合研究は本センターに課せられた重要課題の一つですが、その足がかりを得たことは大きな成果でした。協議では、合同調査を通じた教員・院生・学生の相互交換などの話も出ました。


図7 先史時代?のダム遺跡(ムシャカン地区)

図8 ヘレニズム時代の神殿(ガルニ)

図9 中世アルメニア教会修道院(ゲハルト)

図10 雪の調査区を遠望

図11 アルメニア農家の昼食(乳製品、果物、豚肉・牛肉、杏ジュース、コニャック、ワイン、コーヒー)

アルメニアからヨルダンへ
 7日午後、すべての業務を終え、アルメニアを出国。ベイルート経由でヨルダンに入り、1週間前にすでに入国していた足立拓郎准教授と合流しました。それからの約1ヶ月間、科研による遺跡調査に取り組みました。治安を懸念されていたヨルダンですが、予想通り、まったくの平穏でした。我々にとって気がかりだったのはそれよりもむしろ寒さの方でしたが、幸いにして今年は暖かな日が多く、調査も順調に進めることができました。ヨルダン調査の成果についても、別の機会に報告したいと思っています。

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