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サウジアラビアでの二国間交流事業
日本学術振興会の「二国間交流事業」の支援を受け、昨年の12月7日から30日まで「サウジアラビア、タブーク州における初期遊牧民の考古学的研究」(代表・足立拓朗)という調査を行ってきました。前回のメンバーズコラムで、9月の調査を「若手考古学者育成」という観点で紹介しました。今回は2度目の報告ということになります。
本プロジェクトは、サウジアラビア考古観光委員会、キング・サウード大学と共同で考古学調査を行いますが、前回はキング・サウード大学側と十分な調整をすることができませんでした。その理由は、同大学の考古学・観光学部の教授アブダッラ・アルシャレク氏の多忙によるものでした。現在、アルシャレク教授は学部長を兼任しており、共同の考古学調査に参加することが困難になっています。
12月の調査では、調査地のタブーク州に入る前に首都リヤドのキング・サウード大学を訪問し、アルシャレク教授と今後の調査について打ち合わせを行いました。キング・サウード大学はリヤド市郊外にある学生数3万7千人の超大型大学です。ある程度の場所や電話番号などを聞いていたにもかかわらず、考古学・観光学部の建物に到着するのが至難の業でしたが、アルシャレク教授の学部長室で今後の協力関係や学生への指導方法について有意義な意見交換ができました。今後、キング・サウード大学の考古学専攻生に様々な研修を実施することが期待されています。3Dスキャナーや自動追尾型トータルステーションなどの最新測量機材やラジコンヘリコプターを使用した空中撮影などの技術に関心があるようでした。また男子学生と女子学生の授業が別な部屋で行われること、女子学生への講義はビデオなどを使用することなど、サウジアラビア特有の注意点があることもわかりました。
会議終了後、キング・サウード大学の考古学博物館を見学し、また近隣にある世界遺産のディリーヤ遺跡(王族であるサウード家が拠点とした都市遺跡)を訪問しました。キング・サウード大学からディリーヤ遺跡訪問までの行動は逐一撮影したのですがが、私の不注意でカメラを紛失してしまい、画像記録が全く残っていません。私の失敗が原因ですが、今回はカメラの問題が多い調査となりました。
調査が始まる前にカメラを紛失してしまったため、科学研究費(S)で別プロジェクトを実施中の藤井純夫教授の持参したカメラ1台で調査全体を実施することになってしまいました。何とも情けない状態で調査地のタブーク州(サウジアラビア北西部)へ向かいました。
9月はタブーク州北部のワディ・グバイ遺跡の分布調査に主眼を置いていましたが、今回はタブーク州西部のワディ・シャルマ1遺跡で本格的な発掘調査を実施しました。ワディ・シャルマは紅海へつながる峡谷(涸れ谷)で、中・下流はナツメヤシの林が見られます(写真1)。このナツメヤシ林は手入れがあまりされておらず果樹栽培というより、一種の暴風林として機能しているのかもしれません。とにかく、この谷は風が強いのです。遺跡周辺の上流は荒涼たる風景が広がっていますが、金沢大学のもう一つのフィールドであるヨルダン南部と比べると灌木や草は格段に多いようです(写真2)。
今回の調査には最新機材として、ラジコンヘリコプターを持ち込んでいました。サウジアラビア入国時に税関で手荒な検査を受けたため、当初から多少痛んでいましたが、空中撮影では絶大な効果を発揮する予定でした。初日のテストでは、発掘調査前の状況を無事に撮影することができました(写真3)。しかし、二日目から強風となり、日に日に風は強さをましました。結局、ラジコンヘリコプターを飛ばすどころか、発掘調査にも支障を来すほどの砂嵐に毎日みまわれてしまいました(写真4,5)。
発掘のために雇用したのはエジプト人労働者です。紅海に面したタブーク州にとって、エジプトは外国と言っても地理的には非常に近いと言えます。エジプトはサウジアラビアと同じアラビア語が使用されており、両国には言葉の問題もありません。エジプト人労働者たちは、強風の中の作業を最初は何とか我慢していましたが、後半は砂嵐に耐えられず、マスクをして作業することになりました(写真6)。
サウジアラビアの考古学者達も、この砂嵐の中での作業はつらかったはずですが、今回は58才のベテランの考古学者が率先して働いていたため、若手考古学者達も休むことはできなかったようです(写真7)。今回も若手考古学者育成事業が本プロジェクトの目的の一つとなっていました。タブーク州の若手考古学専門職員のアブデル・ハーディー氏に発掘調査の研修を行いました。彼はキング・サウード大学の考古学・観光学部の卒業生であり、基本的な考古学の訓練は受けていますが、本プロジェクトに連続的に参加することで、様々な最新機材の操作に習熟してもらう予定です(写真8)。今回は実施できませんでしたが、最終的にはラジコンヘリコプターの操作まで研修してもらう予定です。
写真7 サウジアラビア側考古学者、若手のアブデル・ハーディー氏、責任者のアブ・バヤーン氏、ベテラン考古学者ハリーファ氏 | アブデル・ハーディー氏(左) |
最終日まで砂嵐に悩まされた調査でしたが、最後に強風の合間をぬって、遺跡の空中撮影に成功しました(写真9)。しかし、バッテリーが切れるぎりぎりまで撮影を続けたため、着陸に失敗してカメラを壊してしまいました。ヘリコプター装着用のカメラは予備を持ってきていましたので、バッテリーを交換して撮影を続行できましたが、今回の調査では、私の不注意で2台のカメラを失ってしまいました。20年近く海外調査を続けていますが、このような失敗は初めてです。1枚1枚が勝負だったフィルムカメラの時代と違って、何百枚も取れるデジタルカメラに慣れて緊張感を失っているようです。次回から初心に戻らなければなりません。予備の一眼レフデジカメも個人で持って行こうと考えています。
さて、過酷な発掘作業の合間の休憩時間には、アラビック・コーヒーとナツメヤシをいただきます。甘いナツメヤシと焚き火で淹れたアラビック・コーヒーはサウジアラビア独特です。シリアやヨルダンのベドウィンには、このような飲食文化はもうあまり残っていないのでは、と思います(写真10)。
なんとか撮影した発掘区全景 | アブ・ナーセル氏(遺跡管理人) |
紅海沿岸地域ではシーフードも豊富で、発掘後の食事は調査中の楽しみの一つです。自分で魚を選んで調理してもらうこともできます(写真11)。12月中旬からエビも解禁となります(写真12)。ただ、調理方法は洗練されているとは言えません。調査の打ち上げは、羊の煮込み料理(写真13)。サウジアラビア考古学者、労働者と一緒に大皿料理でいただきます。手づかみの食べ方はなかなか上達しません。最近は無理をせずにスプーンを使うようにしています。
今年の夏もワディ・シャルマ1遺跡を発掘する予定です。本プロジェクトに参加するサウジアラビア考古学者もずいぶん増えてきました。次回はキング・サウード大学の学生を対象とした研修を実施する計画です。