ごあいさつ
国際文化資源学研究センターは、2011年2月に金沢大学人間社会研究域附属の研究施設として発足しました。金沢大学が主導する「文化資源学」は、従来の学問分野である考古学、文化人類学、比較文化学、美術史学等を横断する学問分野です。世界中の有形・無形の「文化」をこれまで付与されていた価値体系からいったん解き放ち、「資源」として位置づけることで、そこに新たな価値を創造するものとして文化を研究します。つまり文化資源学は、あらゆる文化を「文化資源」と考え、そこに価値を発見し、肯定的に評価し、それを護り次世代へ継承するとともに、当事者あるいは外部者から調和的に利活用されるべきものとしてとらえるのです。このため金沢大学の文化資源学では、有形・無形の文化そのものに関する基礎研究から始まり、その保護や保存への貢献、利活用する手法の開発といった応用研究から、現代的課題であるSDGsの達成へ向けた実践的貢献まで、すべての分野を取り扱います。こうした文化資源学の発展のために、本センター構成員は、日々、自身のフィールドワークを行い、国内外の研究機関との国際共同研究をとおして、世界各地の最前線で調査研究をすすめています。
本センターの強みのひとつはその学際性にあり、それはセンターを構成する三つの部門によって支えられています。「形態文化資源部門」は、世界遺産に登録されている古代都市遺跡といった有形の文化資源に関する調査・研究を行っています。「伝承文化資源部門」は、無形文化資源にかんする基礎的な調査・研究を、「文化資源情報部門」は有形・無形の文化資源についての情報の収集・整理分析・データベースの構築を行っています。同時に本センターでは、上記3部門を横断するかたちで「課題ユニット」という特定プロジェクトを組織し、3部門が有機的に連関し、個々の部門をこえる合同調査、データの共有、共同研究、情報発信などを行うことを可能にしています。こうした調査・研究のほか、世界文化遺産の実際の保存や修復プロセスへの関与、フィールドでの高精細なデジタル三次元データの収集とそれに基づく3Dモデルの構築、古人骨の全ゲノム解析などの分野においては、最先端の科学技術を駆使した文理融合の研究スタイルで、国際競争の最前線で調査・研究をすすめています。
文化資源学は、金沢大学の重点研究領域として位置づけられています。金沢大学は2016年度にすぐれた研究領域を重点的に支援するため「超然プロジェクト」を発足させましたが、本センター構成員を母体とする研究グループは、「文化資源マネジメントの世界的研究・教育拠点形成」(2016~2018)、「古代文明の学際研究の世界的拠点形成」(2019~2021)という二つの超然プロジェクトに採択されています。また、新学術創成研究機構に配置された「文化遺産国際協力ネットワーキング・ユニット」とともに、グアテマラ、ホンジュラス、エジプト等において、本学の国際協力事業の代表的なプロジェクトを実施しています。
本センターは、文化資源学の領域における学生の教育や若手研究者の養成にも大きな貢献をしています。とりわけ、博士課程教育リーディングプログラム「文化資源マネージャー養成プログラム」では、本センター構成員を中心とした教育体制のもとで、留学生と日本人学生に対して理論と実践のバランスの取れた大学院教育を実施してきました。現代社会の要請であるSDGsの達成に貢献できる文化資源学を基礎とした人材の育成は、今後、ますます重要な意味をもつこととなるでしょう。
国際文化資源学研究センターは、今年度、いよいよその設置期間10年の最終年度となりました。そのため、今年度は、これまでの研究成果を総括し、新たな研究施設の発足へつなげていく重要な年度となります。次のステージへ向けて、今後とも皆様のあたたかいご支援を心よりお願い申し上げます。
国際文化資源学研究センター長
中村 誠一