国内
国立民族学博物館
2014年度より共同研究やその成果の発表を継続しておこなっている。2014~2017年度には、伝承文化資源部門の鏡味治也が代表となりセンター所属の文化人類学研究者である西本陽一・松村恵里・田村うららも参加する共同研究「生活用品から見たライフスタイルの近代化とその国別差異の研究」を実施した。2017年1月には、国立民俗学博物館と本センターが共催者として名をつらねるかたちで、シンポジウム「世界遺産とともに生きる―地域の人々の視点から」を開催した。
東京文化財研究所
2014年3月に、金沢大学は独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所(以下、東文研)と文化資源学分野における研究協力協定を締結した。東文研は、文化財の修復に関する調査研究を専門とする国内有数の研究機関であり、その活動は国内だけでなくアジアやヨーロッパなど海外における文化遺産国際協力分野にまで及ぶ。
国際文化資源学研究センターは、東文研との研究交流により、文化資源学を発展させるための研究手法の深化を試みる。特に、国内外の文化資源学に関わる現場で、しばしば喫緊の課題として直面する文化遺産の保存修復や活用の問題解決に、本学術交流は寄与すると考えられる。今後、双方の研究者による共同研究の実施も予定されており、学術交流が一層促進されることが期待されるともに、同共同研究に学生を参画させることで、文化遺産国際協力や文化財の修復を担う人材育成の促進なども望まれる。
名古屋大学人類文化遺産テクスト学研究センター
2017年に名古屋大学人類文化遺産テキスト学研究センター(CHT)との研究連携が締結された。同センターは2015年に名古屋大学内の人文学系部局附属センターとして設置され,アーカイヴス部門,物質文化部門,視覚文化部門の三部門で構成されている。本センターとCHTはいずれも文化遺産を主たる研究対象とすることから,両者の連携によって,この分野における両大学のプレゼンスがより強化されることになった。
また,本センターがとくに考古学や文化遺産学などが対象とする有形の文化遺産の研究に強みがあるのに対し,CHTは日本文学や歴史学などが扱う文字資料(史料)を研究の中核としていることから,相互補完的な協力体制の確立も期待される。同じ中部地方の基幹大学として協力関係を構築することにより,将来的に日本の人文学研究を牽引する役割を両センターが担うことが期待される。
海外
セインズベリー日本藝術研究所
連合王国ノリッチ(Norwich, UK)所在のセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures, 以下SISJAC)は、欧州における重要な日本芸術・文化の研究拠点のひとつである。SISJACスタッフの研究テーマは考古学、人類学から浮世絵、伝統工芸、現代アート、建築、マンガまで幅広く、日本の芸術と文化の総合的研究拠点と言うにふさわしい。SISJACは英国内において、日本学センターを有するイーストアングリア大学、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院、大英博物館といった学術機関と密接な連携関係を構築している。本学とは2015年3月に交流協定を締結している。SISJACとの連携強化によって、「外からみた日本」や「世界の中での日本研究」を知り、とかくタコツボ化しがちな日本文化に関する研究活動や成果の発信方法を見直すことにつながる。今後はSISJACの考古学文化遺産センターと本センター課題ユニット「考古学と現代社会」との研究交流からスタートし、順次交流分野の拡大、学生派遣による教育面での交流拡大をめざしている。2015年10月末から1年間、吉田泰幸がJapanese Archaeology Fellowとして滞在し、研究所内のCentre for Archaeology and Heritageスタッフの協力も得ながら、縄文時代の考古学の国際発信、文化遺産学についての比較研究を行っている。
ホンジュラス国立人類学歴史学研究所
ホンジュラス国内に存在するすべての文化遺産の管理運営権をもつIHAHとは、2013年2月に金沢大学学長を代表とする視察団が訪問し、大学間交流協定が締結された。形態文化資源部門の中村誠一教授ら中米ユニットが世界文化遺産「コパンのマヤ遺跡」を中心として様々な活動を展開している。ホンジュラス側でも、国際文化資源学研究センターがJICAと連携して実施した課題別研修「地域資源としてのマヤ文明遺跡の保存と活用」(期間1ヵ月半)に2014~2015年度に参加した研修生3名が、研究所所長、研究所財務・総務部長、研究所コパン遺跡管理責任者というNo.1~No.3のポストに就任したため、金沢大学との連携がますます強くなった。
研究面では、2016年度より、世界遺産の学術調査だけではなく、地域の雇用創出、観光振興を視野に入れてホンジュラス政府が実施中の発掘・修復プロジェクトに協力している。産学連携という観点からは、凸版印刷が行うコパン遺跡中心部の3次元計測を補佐し、発掘区域やコパン遺跡大広場周辺の3Dモデルの作成を支援している。その一部は、エル・プエンテ遺跡博物館、コパン・デジタルミュージアム(以下参照)に凸版VRシアターとして結実している。VR技術を実際の博物館展示や大学での講義・講演会へ応用する実践研究も、凸版印刷と共同で大学での講義やセンター主催シンポジウムで行っている。またホンジュラス政府資金を使って行う非破壊法による遺跡・遺構の探査手法の開発でも、早稲田大学と連携した地下レーダー探査(GPR)を行ない、2018年度からの新たな計画として、名古屋大学チームと連携して、宇宙線ラディオグラフィー(ミューオン)を使ってアクロポリス内部を透視する予備調査を開始した。
教育面では、2013年にエル・プエンテ遺跡とコパン遺跡において、大学院博士課程教育リーディングプログラム「文化資源マネージャー養成プログラム」の現地研修が行われ、その後コパンは、毎年、大学院生の学位論文作成のための調査フィールドとなっている。2016年度には、大学教育改革GPプログラムとして人間社会学域のマヤ世界遺産研修が、2017年度にはマヤ世界遺産インターンシップ・プログラムがコパンで行われた。
人材育成面では、グアテマラで実施中のJICAとの連携事業である草の根技術協力事業の第三国研修をコパンルイナスで行った。また、11月に金沢で実施されたJICA草の根技術協力事業の本邦研修に、IHAHから1名、研修員として招聘した。
コパン・デジタルミュージアム(Museo Digital Copan Ruinas)
日本と中米の外交関係樹立80周年にあたった2015年に両国の記念事業としてコパン・デジタルミュージアムが設立されたが、ホンジュラス政府は、センター教授の中村誠一に博物館展示の総指揮と監修を依頼し、2015年12月8日、眞子内親王殿下及び大統領夫人ご臨席のもと、現地で新博物館はオープンした。2017年度にも、引き続きIHAHのコパン・デジタルミュージアム運営に協力し、学生たちの海外インターンシッププログラムを通して、新たな博物館展示の企画や設置に協力した。
コパン文化遺産保存・人材育成センター
外務省主管のノンプロジェクト無償資金協力に対するホンジュラス政府側の見返り資金を使って、ホンジュラス政府によりコパンの文化資源の保存と活用を促進するために建設された人材育成センター内に、2017年8月、金沢大学リエゾンオフィスが設置された。これにより、今後コパンルイナスで、広範な研究・教育活動に対応できる活動拠点が確保された。
グアテマラ文化自然遺産副省
2011年6月に金沢大学研究担当理事・副学長を代表とする視察団が訪問し、大学間交流協定が締結された。2012年には、国立公園内に本学のリエゾンオフィスが設置されている。形態文化資源部門の中村誠一教授ら中米ユニットがグアテマラで活動を展開している。研究面では、ユネスコ日本信託基金や超然プロジェクト資金、科学研究費補助金を使って、世界複合遺産「ティカル国立公園」北のアクロポリスのデジタル三次元測量、三次元モデル化を実施中であり、ティカル国立公園が実施している発掘調査など考古学的調査研究を支援している。
教育面では、2016年度には、大学教育改革GPプログラムとして人間社会学域のマヤ世界遺産研修がグアテマラシティの博物館やティカル国立公園で実施された。人材育成面でも、JICAの委託研修事業を通して、これまでに10人の文化自然遺産副省の職員・研究員が本学で研修を受けており、文化スポーツ大臣、文化自然遺産副大臣の金沢大学訪問や特別講演会も行われている。さらに、ティカル遺跡の文化資源を活用して周辺コミュニティ住民の生活向上につなげる方策を開発・支援する草の根技術協力プロジェクト(JICAからの委託事業)も2期目がスタートし、2022年度までの長いスパンで実施中である。このプロジェクトでは、グアテマラの関係省庁と連携して、6つの対象集落からリーダー的資質を持つ住民を選定し各種研修を実施して、リーダーを中心に住民の組織化を図ろうとしている。文化・自然ガイドの養成、地元の資材や食材を使った特産品や伝統工芸品の制作に結び付ける各種技能研修の実施、地元小中学生のティカル遺跡での野外教育等は、継続して実施されている。2018年11月には金沢大学で本邦研修が実施された。
金沢大学内のプロジェクト
新学術創成研究機構
2015年4月1日、学問の分野融合や国際的な頭脳循環の更なる強化を目的として、金沢大学に新学術創成研究機構が設立された。本機構内の研究部門には、3つの研究コアが設置され、それぞれに4つの研究ユニットが所属している。そのうちの「未来社会創造研究コア」には「文化遺産国際協力ネットワーキングユニット」が置かれた。本研究ユニットの構成員は、国際文化資源学研究センター所属教員10名であり、従来の文化資源学の研究グループから派生した新たな研究ユニットである。本ユニットの目的は、金沢大学を中心とした文化資源学に関する国際的な研究ネットワークを確立することである。本ユニットも、これまでと同様に、国際文化資源学研究センターが重点的に取り組んできた文化資源学の方法論的深化と実践を研究目標の1つとして継承する。その一方で、特に本ユニットでは、所属教員が国内外で実施している文化資源学に関する研究プロジェクトを横断する形で研究ネットワークを形成することに重点を置く。研究ネットワークの形成により、文化資源学の実践と発展に寄与する情報共有や人的交流が促進され、また、文化遺産国際協力分野の諸問題に対して金沢大学が迅速に対応できるような知識や情報の共有が強化されると考えられる。
超然プロジェクト 文化資源マネジメントの世界的研究・教育拠点形成
超然プロジェクトとは、本学が優位性を有する研究領域を重点的に支援し,世界的な拠点形成をめざす取り組みである。われわれは2015年度に「文化資源マネジメントの世界的研究・教育拠点形成」のテーマで採択された。これまで国際文化資源学研究センターを中心に手掛けてきた研究・教育・国際貢献事業をさらに展開強化し、同センターを「文化資源マネジメント」の世界的研究・教育拠点に育てることを目的とする。
本プロジェクトでは、すでに国内トップレベルにある外国考古学研究だけでなく、イタリア壁画で実績のある文化財保存技術の開発、人類普遍の価値を有する文化遺産を次世代に引き継ぐための世界遺産マネジメントの手法確立、若手研究者の海外派遣による人材育成、さらに、英文のオンライン・ジャーナル発行による国際発信力強化などを推進している。また、リサーチプロフェッサー制度を活用して、西アジア考古学や日本宗教史などの先鋭化を図る。こうした取り組みによって、文化資源学分野における国内最高峰の地位を確固たるものとする。
フレスコ壁画研究センター
2004年から日伊共同で取り組んできたフィレンツェのサンタ・クローチェ教会壁画(アーニョロ・ガッディ作 「聖十字架物語」 1380年代)の修復プロジェクトの成功実績に基づき、文部科学省の特別経費を得て、すでに緊密な協力関係にあった国立フィレンツェ修復研究所と連携し、南イタリアの中世壁画群の調査・研究を実施することになった。
2010年5月、南イタリアに散在する中世洞窟教会壁画群診断調査プロジェクトの拠点として「フレスコ壁画研究センター」が金沢大学人間社会研究域に設置された。そして、イタリア国立フィレンツェ修復研究所との調査研究協力に関する合意書が調印され、ここに金沢大学の新たな挑戦─人文系、芸術系、工学系、医薬系などの多岐にわたる分野の研究員がともに取り組む画期的な挑戦が4年計画でスタートした。壁画の現状は高精細デジタルカメラのほか、2種類の3Dスキャナや赤外線サーモグラフィ、色差計、水分計、マイクロスコープなどの最新の科学計測機器を駆使して分析診断され、調査を実施したすべての壁画は、歴史的文化遺産として未来に伝えるべくデジタル・アーカイブ(データベース)に記録された。
「フレスコ壁画研究センター」は、当初の予定を延長して2015年10月まで活動を継続し、以後はそのすべての活動を「国際文化資源学研究センター」に移行して、「文化遺産としての壁画保存」という大きな課題に取り組んでいる。
「フレスコ壁画研究センター」は、文化遺産としての壁画の保存修復活動と並行して、サンタ・クローチェ教会壁画の修復プロジェクトにおいては14世紀のイタリアで完成したフレスコ画法の研究をテーマとし、南イタリアに散在する中世洞窟教会壁画群診断調査プロジェクトにおいては、フレスコ画法成立以前の壁画技法の研究をテーマとしてきた。今後は壁画文化のルーツをイタリアからさらに東へ移し、ギリシアやトルコを中心にビザンティン壁画の技法に関する研究テーマを掲げて新たなプロジェクトを準備中である。