もしドラ2015 :課題ユニット「考古学と現代社会」のこれまで、これから4
吉田 泰幸
「考古学と現代社会」シリーズ第5回は、「さよなら、まいぶん」と題して、ゲストスピーカーにNPO法人古代邇波の里・文化遺産ネットワーク(略称:ニワ里ねっと)理事長の赤塚次郎さんと、株式会社四門の岡安光彦さんをお迎えし、金沢歌劇座にて2015年1月24日(土)に開催しました。
この「さよなら、まいぶん」というタイトルは、とある人から「巧みな炎上商法」と評されたのですが、少し説明が必要です。「まいぶん」というのは「埋蔵文化財センター」、あるいはそれを中心とした整備された「埋蔵文化財調査保護体制」の略称です。セミナーシリーズ第4回の羽生先生の発表スライドの中に、「戦後日本考古学の歴史は開発の歴史と裏表」という文言があるのですが、大規模国土開発(高速道路や新幹線建設等がその典型)で考古学遺跡は壊されてなくなってしまう、それらを記録保存(遺跡はなくなってしまうが学術的な記録を残す、重要な発見があった場合は現地が遺跡公園として保存されます)するための緊急発掘調査を遂行しているのが埋蔵文化財センターで、都道府県・市町村の外郭団体であることが多いです。日本は世界的に見てもそうした「行政=官」主導の調査体制が非常に整備されている国の一つです。「まいぶん」の調査では大きな面積を対象とすることも手伝って新聞紙面を賑わすような発見も多く、「まいぶん」は戦後日本考古学の歴史の一部でもあります。近年、国土開発は未だ継続中とは言えかつてほどではないのと、不景気、行政そのものへの厳しい目、専門職員数がある時点から右肩下がり、等々が重なって、「まいぶん」周辺にはある種の危機感や閉塞感があります。
そんな中、愛知まいぶんで長く活躍され、研究者としても著名でありながら、NPOニワ里ねっとを立ち上げ、これまでのまいぶん保護の枠組みとは異なるアプローチで文化遺産を活用した地域活性化事業を展開している赤塚次郎さんを、開催当時は愛知まいぶんを定年まであと二ヶ月のタイミングでお呼びし、「文化遺産を機能化するNPOセクター」と題してお話しいただきました。併せて、まいぶんの調査を支援する民間企業に勤務する岡安光彦さんに「もしドラッカーが日本の『まいぶん』の現状を眺めたら」と題して、「ここが変だよ、まいぶん」的でありながら建設的な提言を含むお話しをしていただきました。「対話」セクションでも、NPOニワ里ねっとのように究極の目標を「まちづくり」に置いた場合に、例えば考古学者はどういった仕組み作りに関与するのかを始めとして、幅広い話題が議論されました。
「さよなら、まいぶん」とは決して「まいぶんなくなってしまえ」ということではなくて、英語の副題“Rethinking of ‘MAIBUN’”を経て、これまでとはまた違った「まいぶん」に出会うためのことばなのだ、ということが当日ご参加いただいた方々に伝わっていれば幸いです。
以上、駆け足で振り返るつもりが長くなってしまいましたが、セミナーシリーズ開催中、全体テーマである「考古学と現代社会」に関係した論文、招聘するゲストスピーカーの方々の論文や著作を読む読書会(英語文献を読む事が多く、“Archaeology and Contemporary Society Reading Group” を仮ですが会の名称としています)をセンター教員やポスドク研究員、博士課程リーディングプログラム「文化資源マネージャー養成プログラム」の学生達とともに開催してきました。
2015年10月からは国立民族学博物館共同研究「考古学の民族誌:考古学的知識の多様な形成・利用・変成過程の研究」(代表:ジョン・アートル)が始まりました。この共同研究プロジェクトでは、これまで以上に多様な考古学の「今」をエスノグラフィーという手法で描き出すことを試みます。そこでの研究成果やネットワークは、これまでの5回のセミナーが「考古学と現代社会」セミナーシリーズ第1期とするならば、これからのセミナーシリーズ第2期の企画に反映されるものと期待しています。
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